上司が壁ドンしてきます。

上司が壁ドンしてきます。 強引な誘惑
第1回

上司が壁ドンしてきます。 強引な誘惑

2015/05/29公開
◇◇◇

 今日も朝からドタバタと走りまわる。
 なかなか余裕を持って仕事ができない。
 私、櫻井香純《さくらいかすみ》は入社3年目で仕事になんとか慣れてきたものの、まわりの人たちに比べると鈍くさく、どうしてこんなにだめなのだろうと情けない気分になることも多い。
 だから2ヵ月間という短期間とはいえ、会社が力を入れて推進しているプロジェクトのメンバーに選ばれるとは夢にも思っていなかった。
 プロジェクトのチームリーダーは朽木拓真《くちきたくま》係長、33歳、独身。
 見目麗しく、仕事もできて、周囲からの信頼も厚い人だ。
 30をすぎても独身を貫いている彼は、多くの女性社員の人気を集めている。
 朽木係長は男性社員からやっかまれることなく、羨望の眼差しを向けられている。仕事に厳しい人だが、自身も仕事をキッチリとこなし、周囲へのフォローも忘れないからだ。
 完璧で欠点などないのではないか、そう思えるほどの人。
 そんな人が率いるチームメンバーに選ばれたことでさえ謎なのに、そのうえリーダー補佐を任されるなんて荷が重すぎる。
 私以外のメンバーはできる人ばかりで、仕事が速いだけじゃなく正確だ。ほかのメンバーから選んだほうが絶対にいいはずなのに。
 『憧れている朽木拓真係長と仕事上とはいえ、パートナーになれる!』
 と、指名された瞬間は浮かれたけれど、仕事はそんな甘い気分でできるものではない。自分の実力は自分がよく知っている。だから、すぐに固辞したのに、
 「荷が重いだなんて決めつけるのは早くないかな? できると思ったから補佐役に任命しているんだ。その俺を信用して引き受けてみないか?」
 なんて力強い笑みで言われてしまう。それがどうしようもなくかっこいい。
 ごくん。唾を飲み込む。
 (……この人、自分のかっこよさをわかってて武器として使ってるわ)
 そう思ったものの、その笑みを見て断るという気持ちはもう弾け飛び、
 「や、やらせていただきます!」
 勢いよく返事をしてしまい、いまに至っている。
 おかげで毎日忙しく、頭はパンク寸前だ。
 朽木係長の仕事に対する姿勢は容赦なく厳しい。けれど厳しいだけじゃなく、さりげなくアドバイスもしてくれる。
 私がリーダー補佐として各メンバーへ行き届いたフォローができるのも朽木係長のおかげだ。
 叱られることも多いけれど、想定以上に仕事をこなすことができたときは、こちらが赤面してしまうほど評価してくれる。
 朽木係長を補佐できるほど私が有能なわけがなく、私がやっていることなんて雑用係みたいなものなのだけど、それでも評価してもらえるとやはり嬉しい。
 女性社員からは朽木係長の補佐をしていることをうらやましがられている。どんなに仕事がたいへんでも、朽木拓真のそばにいられるだけでいいらしい。
 たしかにプロジェクトリーダー補佐という立場上、朽木係長と一緒にすごす時間が多い。仕事が終わったあともなぜか一緒にすごし、ふたりきりで食事をしている。
 初めて食事に誘われたのは、朽木係長の補佐として働きはじめた初日だった。
 女性社員の人気が高い上司とふたりきりで食事をすることに少しためらいがあったが、半ば強引に食事に誘われ、同行した。
 次の日も、その次の日も誘われた。周囲の女性社員に知れたときのことを思うと恐ろしかったけれど、憧れていた朽木係長の誘いを断ることはどうしてもできなくて、仕事帰りに一緒に食事をすることが習慣になってしまっていた。

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上司が壁ドンしてきます。

上司が壁ドンしてきます。強引な誘惑

著  者
雛瀬智美
イラスト
佐々木リズ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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