いいなり彼女

いいなり彼女 痴漢電車の生け贄
第1回

いいなり彼女 痴漢電車の生け贄

2015/05/29公開
 平日とはいえ、宴会シーズンとあって終電は思ったよりも混雑していた。
 「座れそうにないけど大丈夫?」
 加藤雅輝《かとうまさき》は押野真理《おしのまり》の体をドア近くの小さなスペースに誘導しながらささやいた。
 「は、はい……大丈夫です……」
 「こっちへおいで」
 すぐ目の前に迫ってきた雅輝の胸板に、真理は恥ずかしくなってドギマギとうなずいた。
 「今日は楽しかった……」
 電車が動き出すと、雅輝が真理の耳もとでやさしくささやく。
 「私も……嬉しかったです……もう……お誘いいただけないと思っていたので……」
 「……どうして?」
 息がかかるほど近くにある雅輝の顔──。その笑顔があまりにもまぶしすぎて、真理は思わず視線をあてどなく泳がせた。
 くっきりとした凛々しい眉に鼻筋の通った高い鼻。彫りは深いけれど決して濃い顔なわけではなく、むしろスッキリと涼しげな印象に見えるのは、透明感のある美しい肌と、まるで子犬のようにも見える黒目がちなやさしい目もとのせいかもしれない。
 本当に『超絶イケメン』とはこの人のためにある言葉なのではないかと思う。
 「だって……あの日はふたりとも酔ってたし……。私みたいな地味な子を安藤さんが相手にするわけないのかなって……」
 「──そんなことないよ」
 雅輝は真理の髪をなでながら、ふっとやさしいほほえみを浮かべた。
 「あのときは確かに酔ってたけど……それは君とのおしゃべりが楽しかったからだし」
 「……ほんとですか? ……私……正直自分に自信がなくて……安藤さんとは……同じ会社だけど。一生、お話ができることなんてないと思ってました」
 「あっはっは。一生だなんて……大げさだなあ」
 じつは真理が雅輝とまともに会話を交わしたのは、今日でまだ2回目だ。
 一度目は2週間前に開かれた会社の新年会。ふたりはその日、くじ引きでたまたま席が隣になった。
 雅輝は真理を知らなかったが、真理のほうは雅輝をよく知っていた。というよりも、社内でこの人を知らない女子社員はおそらくいないと思う。
 いや、社内にかぎらず、女ならばかならずこの人の美しい容姿と優雅な立ち居振る舞いに目が釘づけになり、ついうっとりと見とれてしまうだろう。それほどまでに、雅輝の容姿は男性としてほぼ完璧であると言えた。
 そんなパーフェクトすぎる男性と、彼氏いない歴23年の超オクテの自分がまさかこんなことになってしまったなんて、真理はいまだに信じられなかった。


 毎日通勤電車で車両が一緒になる雅輝を、真理はいつも「本当に素敵な人だなぁ……」と思いながら、遠くからぼんやり眺めていた。
 真理にとって雅輝は、あまりにも自分とはかけ離れた芸能人のような存在であり、おしゃべりしてみたいとか、親しくなりたいとか、ましてや付き合いたいなんて望んだことも、想像したこともなかったのだ。
 しかし新年会の日、もともと男性としゃべるのが極度に苦手な真理を雅輝はとても上手に楽しませた。みんなの憧れの安藤雅輝が自分だけを見て、自分だけのために笑ったりしゃべったりしているということが、まるで夢のように感じられた。
 これまで飲み会に楽しい思い出なんてまるでなかった真理だったが、この日は本当に楽しくて、つい己を見失うほど泥酔してしまったのだ。気がつけばホテルで雅輝に抱かれていた。当然、真理は処女だった。
 「私……その……初めてだったから……。重そうな女だと思われてるんじゃないかって……。この2週間、ずっと考えてたんです。だから、今日また食事に誘っていただいて本当に嬉しかったんです」
 「……重いだなんて。こんな言い方がへんかもしれないけど……。初めてだったって知って、すごく嬉しかったよ。正直いままでいろんな子と付き合ったけど、君だけは……特別って気がする」

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いいなり彼女

いいなり彼女痴漢電車の生け贄

著  者
アユミ
イラスト
柾木見月
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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