恋は媚薬とスパイス、素敵な何かでできています。

恋は媚薬とスパイス、素敵な何かでできています。
第1回

恋は媚薬とスパイス、素敵な何かでできています。

恋は媚薬
2015/05/29公開
◇◇◇

 毒々しいピンク色の照明が照らし出すラブホテルの一室。
 四方の壁には鉄格子のようなものがはめ込まれ、天井からは金属製の枷《かせ》がつけられた数本の鎖がぶら下がっている。
 入り口の正面にはアダルト映像を垂れ流す大画面テレビ。
 大きなベッドのそばには革製の拘束具をはじめ、目をそむけたくなるような性具がいくつも備えつけられていた。
 怪しげなモノが満載の室内に圧倒されながら、水原結衣《みずはらゆい》は唇を尖らせて北条哲哉《ほうじょうてつや》の広い背中をバシバシと叩き続けていた。
 
 
 「よりによって、初めてのホテルになんでこんなトコ選んじゃうのよ! アタマおかしいんじゃないの?」
 「はあ? 『お城みたいでカワイイからここにする』って言ったのはおまえだろうが」
 顔だけを少しうしろに向けて、哲哉があきれたように言う。
 いつもと変わらない、のんびりした口調。
 こっちは恥ずかしくて居心地が悪くてどうしようもないのに、なんだか馬鹿にされているようで腹が立つ。
 「だって、SMホテルとか……知らなかったんだもん。気づいてたんなら、入る前に教えてよ!」
 「いや、そろそろ普通のじゃ物足りなくなって、こういうのに興味出てきたのかと思ってさ」
 「ばっ、馬鹿なこと言わないで。そんなはずないでしょ? いつも哲哉は気遣いが足りないんだよね、ほんと」
 ぶつぶつと文句を言い続ける結衣を気にする様子もなく、哲哉はベッド横に置かれた冷蔵庫から缶ビールを1本取り出し、プルタブを引いた。
 大きな喉仏を上下させ、いかにもおいしそうにふた口ほど飲んだあとで手招きしてくる。
 「アレ、飲むんだろ? 来いよ」
 「えっ……まっ、まだ話終わってないし! だいたいね、雰囲気とかも全然……」
 「うるせえな、もう黙れ」
 少し怯んで後ずさりをしようとした瞬間、哲哉の筋肉質な腕に抱き寄せられた。
 顎をきつくつかまれ、真上を向かされる。
 研ぎ澄まされた刃物のように鋭い眼差しがすぐ目の前にあった。
 ずるい、と思う。
 こういうときだけ、哲哉は男の顔になる。
 頬が熱い。
 まともに目を合わせられなくなる。
 もうずっと前からの友だちだし、なんでも言い合える仲なのに。
 こんなときだけ、どうして緊張するんだろう。
 なんだか怖くて、どきどきして、逆らえなくなってしまう。
 「ほら、早く口開けろ」
 「んっ……」
 哲哉は白い錠剤をひと粒取り出してビールとともに口に含むと、そのまま深く唇を重ねてきた。
 柔らかな感触に口全体が包み込まれる。
 息苦しさを覚える間もなく、ほろ苦い液体と錠剤が喉の奥深くまで流し込まれていく。
 互いの舌はごく自然に絡まり、絶え間なく分泌される甘い唾液が混じり合う。
 こういうキスは不潔な感じがして嫌いだった。
 でもどういうわけだか、哲哉とするときだけは抵抗がない。
 歯の裏側をなぞられ、時間をかけて口の中を探られても、やめてほしいと思ったことはなかった。
 頭がぼんやりとしてきて、この世でいちばんおいしいものを食べたときのようにうっとりとした気持ちになる。
 もっと、もっとしてほしい。
 いつのまにか結衣のほっそりとした腕は哲哉の首にまわり、背伸びをして自分からキスをねだる体勢になっている。
 ……もう薬が効いてきたのかもしれない。
 骨ばった大きな手が長い髪を優しく梳いていく。
 どくん、どくん、と胸の鼓動が大きくなる。
 やがて名残惜しそうに唇が離れ、目の上と頬に一度ずつ触れたあと、今度は耳朶にそっと歯を立てられた。
 「あ……」
 ぞくん、と背筋から足先までピリピリと微弱な電流が駆け抜けていく。
 体の力が抜けてその場に座り込みそうになったところを、哲哉に素早く抱き上げられた。
 「ち、ちょっと」
 「なんだよ」
 「お、下ろしてよ。ねえっ」
 両脚がぶらんと宙に浮く。
 いわゆる『お姫様だっこ』をされていることが気恥しくて、結衣は哲哉の胸を2~3回ぺたんぺたんと叩いた。
 でもその力は弱々しく、もはやなんの抵抗にもなっていない。
 「もう……馬鹿っ……」
 「なんだ、急におとなしくなったな。もう薬が効いてきたのか?」
 結衣はそれに答えず、黙って哲哉の胸に頬を寄せた。
 この『薬』を使うのはもう何度目になるだろう。
 小さな白い錠剤。
 これをひと粒飲むだけで、体のどこを触られても気持ちよくなってしまう。
 セックスなんてそんなに好きじゃなかったはずの結衣でさえ、抱いてほしくてたまらなくなる。

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恋は媚薬とスパイス、素敵な何かでできています。

恋は媚薬とスパイス、素敵な何かでできています。

著  者
マイマイ
イラスト
志島とひろ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
シリーズ
恋は媚薬
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