欲情スイッチ

欲情スイッチ ニンフォマニアは淫らに濡れる
第1回

欲情スイッチ ニンフォマニアは淫らに濡れる

2015/05/29公開
「やっと終わった……」
 つぶやいた栄依子(えいこ)は銀縁の細いフレームの眼鏡を人差し指でクイッと上げた。
 眼鏡メーカー『丸高眼鏡』本社に勤務する栄依子は販促チームに所属し、WEBショップのページを作っている。
 デザインが得意だったからその部署になったわけではない。たまたま配属されて一からソフトの使い方を覚えて、その仕事をするようになった。
 商品の入れ替わりが多いため、やることが多い部署である。それに加えて新商品のプロジェクトメンバーになってしまい、せわしない毎日を送っていた。
 気がつけばもう28歳だし、仕事に生きるしかないと思いながら日々業務に励んでいる。
 帰り支度を済ませて部署を出た。
 ほとんどの社員が退社しているためか廊下は薄暗い。そんな中、打ち合わせ室の扉から光が漏れていた。
 こんな時間に誰が打ち合わせをしているのだろう。
 気になった栄依子は足音を立てないように近づくと隙間が少しだけ開いていた。悪気もなくそっと覗いてみると、よく知っている男女の同僚が抱き合っているではないか。
 思わず唾をごくっと飲み込んだ。
 ふたりは唇を重ね合わせて舌を絡めている。水気を含んだ官能的なディープキスを見て体が熱くなってしまう。
(うわ……すごくいやらしい)
 あんな情熱的なキス……自分はずっとしていない。うらやましくて切ない気持ちになった栄依子だったが、エスカレートする行為に目が釘づけになっていた。
 男性社員の手は女性のヒップラインをエロティックに撫で回している。見られているのに気がついていないふたりは、呼吸を荒くしながらまさぐり合う。
「んっ。だめよ。ここは会社なんだから、誰か来ちゃうかもしれないじゃない……はぁんっ」
 甘えきっている声でだめと言いながらも喜んでいる彼女を見て、栄依子は妙に興奮していた。
 他人様の行為を見たことがなかった。路上で抱き合ってチュッと軽くキスしている人は見たことがあるが、オフィスでなんて大胆すぎる……。
 真剣に見つめていると胸が苦しくなってきて、おかしな鼓動を感じて服をつかんだ。
 いつまでも盗み見していてはいけない。
 会社であんなことするなんて正気じゃないのだ。
 自分に言い聞かせながらも栄依子はかなり動揺していた。
 ふたりに気がつかれないようにゆっくりとあとずさる。そしてなるべく足音を立てないように走ろうと思ったとき、豪快に転んでしまった。
(イタタタタ……。あ……れ、眼鏡どこ!?)
 薄暗いうえに視力0・01の栄依子。ほとんど見えない状態なのだ。
 手のひらで慎重に床に触れるが眼鏡がない。困った、どうしよう。眼鏡がないと夜道を歩くのもままならない。
 あせりだす栄依子の手に人の手が触れた。
 びっくりして手を引っ込める。自分のほかに人がいたことに驚きながらも、覗き見をしてしまい心臓がドキドキしているのが知られないように、いつもどおりの平静な自分を演じる。
 おそらく眼鏡を拾ってくれた誰かが立ち上がった。しゃがんだまま目を細めるが、顔が判別できない。見えなくて誰だかわからないが、その親切心にお礼を言わなければ。
「ありがとうございます」
 眼鏡を受け取るために手を差し出す。しかし、一向に相手は眼鏡を渡してくれる素振りがない。くすくすと笑い声が聞こえてくる。
 眼鏡を扱う会社の人間が、眼鏡が必要な人にとってどれほど重要なアイテムなのか知っているだろうに! 眼鏡を取り上げるなんて信じられない!
 むっとする栄依子は、人物のシルエットのある方向へ威圧的につかつかと歩み寄る。それでも眼鏡を渡してくれない。
 こんなことをするのは誰なの!?
 あぁ、もう許せない。
 怒りが頂点に達した栄依子は、小声ではあるが怒りを込めて言った。
「いいかげんにして!」
 栄依子はグイとネクタイを引っぱって目の前にいる人の顔をおもいきり近づけて、誰なのかを確認する。
 そこにいたのは、たじろいだ飯嶋翔(いいじまかける)だった。

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欲情スイッチ

欲情スイッチニンフォマニアは淫らに濡れる

著  者
ひなの琴莉
イラスト
青井レミ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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