甘やかな楔

甘やかな楔 無垢な乙女は淫靡な愛に囚われる
第1回

甘やかな楔 無垢な乙女は淫靡な愛に囚われる

2015/06/26公開
 三好優香(みよしゆうか)は朝に強い。
 なぜなら、毎朝、大(おお)河内(こうち)秀仁(しゅうじ)が淹れてくれるコーヒーを飲んでいるおかげだ。
 多忙な身でありながら、秀仁は毎朝かかさず優香にコーヒーを淹れてくれる。
 これは優香が幼い頃からの習慣で、優香が子どものころは上質なコーヒー豆を使って抽出したコーヒーを子供用に甘くておいしいカフェオレにしてくれていた。それが楽しみで、朝が来るのが待ち遠しかった。
 大人になったいまでもふたりきりでコーヒーをキッチンで飲むのが日課だ。優香のひそかな楽しみでもある。
「じゃあ、行ってくる」
「行ってらっしゃいませ、秀仁さま」
 秀仁が一足早く会社へ行ったあと、優香はゆっくりと出勤準備をする。
 シャワーを浴びて水玉柄のウエストが絞られたワンピースに着替えた。秀仁に与えられている自分の部屋は白とピンクが基調になっており、カーテンはお姫さまのようにレースが使われている。
 その部屋にある真っ白の三面鏡ドレッサーを見ながらメイクをはじめた。椅子もドレッサーも猫脚であり、引き出しの取っ手は金色で可愛らしいデザインなのがとても気に入っている。
 くりっとした二重まぶたに長いまつ毛。
 あどけない顔をしているのだが、口もとの右下にほくろがあるためセクシーに見える。
 派手すぎない焦げ茶でふわふわパーマのセミロングは、手作りのバレッタでハーフアップにしていることが多い。
 優香の趣味はバレッタなどの髪飾りを手作りすること。髪の毛につけていると、ときおり秀仁がほめてくれる。それが嬉しくて、服に合わせていくつも髪飾りを作ってしまう。
「では、行ってまいります」
「いってらっしゃいませ」
 準備を終えて家政婦に挨拶をすませると、玄関から外に出て車を待つ。
 6月になったばかりの空は初夏の色をしていた。青空と白い雲の色が綺麗だ。
 1台の高級外車が目の前に停車する。運転手が扉を開けてくれた後部座席に、優香は乗り込んだ。
「優香さま、本日のお召し物も素敵でございますね」
 ミラー越しに目が合った運転手がほめてくれる。
「ありがとうございます。秀仁さまが選んでくださったんです」
「秀仁さまは、優香さまにお似合いのものをよくご存知ですね」
 車が滑るように走り出した。
 通勤のために送迎車を使うのは優香の希望ではない。秀仁の指示でいつも大河内家の専属運転手が優香の通勤のために送迎してくれるのだ。ひとりで通勤くらいできるのに秀仁は過保護すぎる。
 車に乗っている時間なんて15分もない。あっという間に会社に到着した。
「いってらっしゃいませ」
 運転手は車から降りて、ていねいにお辞儀する。それが彼の仕事とはわかっていても、会社の人に見られたらと思うと落ち着かない。優香は運転手に礼を言い、早足にその場から逃げるように会社のエントランスへ向かう。
 優香が勤める『D・A・Iカフェ』は高層ビルが立ち並ぶ東京の一等地にある。いつ見ても大きなビルだなと感嘆のため息が出た。
 自社ビルを持つ『D・A・Iカフェ』は、コーヒーメーカーの会社であり全国チェーンのカフェを展開し、自社ブランドのコーヒー飲料やデザートも発売している会社である。秀仁の曾祖父が始めたコーヒー豆専門店を発祥にした老舗のコーヒーショップだ。
 きっと優香の力だけでは『D・A・Iカフェ』のような大手企業に就職するのは難しかったろう。秀仁には何から何まで感謝している。秀仁のためにもしっかり働かなくてはと思う。
「おはようございます」
 優香は所属する本社総務部へ入ると、明るく挨拶をした。
 すると総務部のお局さまと、お局さまといつも一緒にいる女性社員のふたりが、優香を上から下までなめ回すように見ながら近づいてくる。
 それに気づかぬふりをして、自分のデスクにつくとパソコンの電源を入れながら仕事の準備にとりかかった。
「三好さん。素敵なワンピースね」
 声をかけられ、しかたなく彼女たちへと顔を向けた。

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甘やかな楔

甘やかな楔無垢な乙女は淫靡な愛に囚われる

著  者
ひなの琴莉
イラスト
イナリユウコ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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