ドS社長は緊縛師

社長は緊縛師(ロープアーティスト)?
第1回

社長は緊縛師(ロープアーティスト)?

2015/08/28公開
「困ったなあ……」
 チャコールグレーのスーツに身を包み、長い髪をうしろで束ねた女性が、コンビニの雑誌コーナーの隅っこのラックから就職情報誌を手に取って、ため息混じりにつぶやいた。
 一見、リクルート中の女子大生にも見えるその女性は、よく見るともう少し大人であることがわかる。
 貴船(きふね)美紗子(みさこ)、28歳。
 彼女が業務縮小による事業の統廃合を理由に、たった1枚の紙切れと1ヵ月ぶんの給料と雀の涙ほどの退職金と引き換えに、大学を卒業してから5年勤めた会社を解雇されたのがひと月前。それから、まだ再就職先を見つけられずにいた。
「事務の仕事にこだわりすぎてるのがいけないのかなぁ。それとも条件面で妥協したほうが……」
 再就職先を探しはじめてから、大学時代は幸運にも比較的あっさりと就職活動を終えることができた美紗子は、初めて社会の厳しさといままで勤めていた会社がいかに好条件だったのかを思い知らされていた。
「こんなときに田舎のおばさんがお見合いの話とか持ってきたら飛びついちゃうんだろうなあ……」
 いままで考えもしなかった思いがふと頭によぎり、思いのほか自分が追い詰められていることに気づいて苦笑し、就職情報誌を手に立ち去りかけたときに女性の声が美紗子を呼び止めた。
「あれ、もしかして……美紗子?」
「えっ……」
 振り返って見ると、ボーダーのカットソーにスキニーなデニムというラフな服装に、男性サラリーマンが持つような肩かけの黒いビジネスバッグという、いささかちぐはぐなスタイルの女性がそこにいた。
「ええと……」
 その服装に気をとられて、それから明るめの茶色のショートボブの顔を見て、美紗子はその女性にかつて知っていた人の面影を見いだした。
「もしかして……さわ先輩?」
 伊東(いとう)佐和(さわ)、美紗子が高校1年生のとき、3年生だった弓道部の先輩である。
 佐和は初心者だった美紗子の指導係で、いつも気さくでやさしく、同時に厳しく教えてくれたいちばん親しい先輩だった。
「懐かしいなぁ。コンビニの前を通りがかって、似てる人がいるなーって思って入ってみたら……」
 ひさしぶりに再会した佐和に誘われて近くのカフェに入ると、佐和は堰(せき)を切ったように昔話をはじめた。
「へえ、そうなんだ。大学入って弓道やめちゃったんだ。美紗子はずっと続けるかと思ってたんだけどなぁ……まぁ高校卒業したら、弓道ができる環境ってあまりないもんね」
 じつのところ弓道の競技人口の約半数が、高校生と中学生である。この数字のうえからもわかるように、美紗子のように高校の卒業とともに弓道をやめてしまう人は多い。
「じゃあ、さわ先輩はずっと続けて?」
 高校から弓道をはじめた美紗子と違い、一流選手だった佐和はたしか弓道が盛んな大学に進んだと記憶していた。
「うーん、大学時代はね……社会人になってからも続けようと思ってたんだけど、就職してすぐ、付き合いはじめた男性(ひと)とのあいだに子どもを授かって……」

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ドS社長は緊縛師

ドS社長は緊縛師熱い指に囚われて

著  者
田中まさみ
イラスト
柾木見月
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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