腹黒ボディーガードの甘い策略

無垢なプリンセスは外の世界に憧れる
第2回

無垢なプリンセスは外の世界に憧れる

2016/03/27公開
「……はぁ」

「プリンセスッ、またそんな運気を下げるようなため息を!」

 ひいぃっ、出たわ! 口うるさい教育係のアマリアが!!

 いつの間に入ってきたの!?

「……ごめんなさい」

「聞こえません。お腹に力を入れて、もっと大きな声でっ」

「ごめんなさい、気をつけますっ」

 あぁん、アマリアの声が大きすぎるのよ。ついでに耳も悪いのよ……とは、口が裂けても言えないし、そもそも言うだけの勇気もない。

 恥ずかしいことに、私ってば自分でも情けないと思うほど意気地なしで、心の中では不平不満をタラタラえらそうに言うけれど、実際には文句ひとつ言えない……。

「さぁ、ご出発の準備をいたしますよ」

「……はい」

 アマリアの指示に従い、ドレッサーの前に座る。とはいえ私がするのはここまでで、あとは全部メイドたちがやってくれる。アマリアは一歩下がって彼女たちの仕事ぶりを見るだけ。これもイヤなのよね。アマリアのこわ~い視線を受けて。

 そろそろ60歳になるはずのアマリアは、姿勢がよく、年齢を感じさせない気迫を持った鬼教育係。各種講師の長を務めているので、誰にも彼にも恐れられている。

「毎日触れさせていただいておりますけれど、ティティスさまの髪は本当に綺麗ですわ」

「ありがとう」

「黒髪ですのに、光が当たればすみれ色に見えるのですもの。エビエストロ王国にはふたりの王子さまがいらっしゃいますが、ティティスさまに恋慕されるかもしれませんわね」

 また、そんなことを。あるわけないわ。エビエストロ王国のふたりの王子はとても麗しく、勤勉で、人望も厚くて、とても人気者だと聞くもの。それに王太子殿下にはお妃さまがいらっしゃるわ。

 隣の国なのに山ひとつ越えるだけでまったく気候が違うそうで、暑いぐらいの我が国とは異なって、あちらはずいぶん寒いそう。そのため、肌の色がとても白いと聞く。

 私が王族にもかかわらず他国の貴人のことをあまり知らないのは、許婚がいるため。

 成人の18歳を迎えるまで、公の場に姿を現わすことを避けてほしいと公爵に要求されたそう。……なので、公務のほとんどが国内で、しかも男性の出入りがある場は避けていた。もちろん、お父さまが。私はべつにどこへでも行くのだけど。

 こんなわけで、お父さまは努めて私が男性と顔を合わせることを避けるよう指示されていた。地位や身分は関係ない。あくまで年齢。あと、メイドたちの話では、外見も。子どもやお年寄り、誰がどう見ても「……」と思ってしまうような容姿の方のみ会うことができて、それ以外はなにもいわず上手に避けているといった感じ。

 とはいえ、私もここまでわかっていながら、文句を言ったことはない。この引っ込み思案で意気地なしの性格と、言ったところで状況が変わるわけではないという気持ちがあって……。お父さまが決められたことに口ごたえすることなく、おとなしく従っている。

 おかげで内なるつぶやきが多い。さらにこの内なるつぶやきは、外出や交流を制限される関係で本や漫画をたくさん読む生活なので、すっかり言葉遣いが下町娘っぽくなってしまった。

 だって、なんだか憧れるのですもの。自由な生活に。しかも現実世界ではプリンセスらしくふるまわないといけないので、心の中ぐらいは開放的でもいいんじゃない? 汚い言葉遣いをしたら、ちょっとは気が晴れたりするのよ。世界に向けて「バカー!」とか「マヌケー!」って叫べたら、どれだけスッキリすることだろう。もちろん、けっして言葉にしては言わないけれど。

「ティティスさま、参りましょうか」

 メイドのエスメラルダの言葉に立ち上がる。彼女はメイドの中でも私のそばを終始離れない付き人で、どこに行くときも一緒。乳母の娘で、幼なじみでもある。私の数少ない友だちだから、身分に関係なく接しているけれど、エスメラルダが陰で叱られていることも知っているので気をつけている。身分をわきまえずプリンセスと親しくするのはいけないことらしい。

 ……はぁ。これも憂鬱よね。私は満足に友だちも与えてもらえないのかしら。

 いっそのこと、エビエストロ王国訪問中に逃げ出して、行方不明にでもなろうかしら。

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腹黒ボディーガードの甘い策略

腹黒ボディーガードの甘い策略純粋培養プリンセス包囲網

著  者
朝陽ゆりね
イラスト
不破希海
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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