12の呪縛

立ちはだかる12の数字
第2回

立ちはだかる12の数字

2016/05/31公開
「由美ちゃん」

 聡は由美の頬に触れた。すべらかな肌に女を感じ、股間がキリキリと痛んだ。

「……こんな、娼婦みたいなまねは、やめるんだ」

 聡の声はかすれていた。緊張と本能の期待、うしろめたさが体を縛りつけている。

「私、いろんなことを経験しているの。だから、なんでも大丈夫。このまま聡さんをくわえるのだって、できるんだよ」

「由美ちゃん!」

 聡は渾身の力で由美の肩を引き離した。張りのある胸の先が股間をかすめ、低くうなる。

「あっ」

 由美も胸の先に甘い痺れを覚えて、小さな声を上げた。それを聞いた聡の股間は脈動し、獰猛(どうもう)な欲求が渦巻いた。

「だめだよ、由美ちゃん」

 聡は唾を飲み込み、情動を抑えた。素肌の胸は熟れた女の匂いを発し、聡を誘っている。

「でも。聡さんの体は、私を欲しがってるよ」

 由美は泣きそうになるのをこらえて言った。ここまでしても抱いてもらえないのかと、苦しくなる。

「とにかく、だめだ」

 聡には、由美が冷静に見えていた。
 まるで明美さんだ。あの人はいつも、こういう状況になると俺をこうして誘惑した。付き合う前も後も、明美さんはずっと俺を子どもあつかいしていたんだ。だから、俺と別れてあの男と――。
 聡は苦い思い出に唇を固く結んだ。
 由美にはそれが、強固な拒絶に見えた。
 聡さんは、いまでも私を付き合っていた女の娘としてしか、見ていないんだ。
 涙がこぼれそうになって、由美はあわててうつむいた。

「わかった」

 うしろを向いて立ち上がった由美は、ブラを直した。由美の背中に、聡の視線がくぎづけになる。
 なめらかな背中と腰のクビレ。ゆるやかなカーブを描く尻をわしづかみ、乱暴に滾(たぎ)る熱を突きたてて、揺さぶりたい。
 いいや、だめだ。そんなことは、許されない。
 聡はこぶしを握り、脚に力を込めてこらえた。
 そんなふうに思われているなど、つゆほども思わずにワンピースを着て身支度を整えた由美は、ふりむきもせずに「じゃあ、またね」と玄関に向かった。

「ああ」

 はたして「また」があるのだろうかと思いつつ、聡はどうしようもないほど堅くなった自分を処理するために、風呂場へ向かった。
 テーブルの上で、由美が作った夕食がゆっくりと冷めていく。



『12』という数字は、とても大きい。
 由美にとって、このうえもなく重要な数字になったのは聡が原因だ。
 母より12歳年下の男。
 私より12歳年上の男。
 3人とも干支がおなじだなんて、おもしろい。
 出会った当初は、その程度の感想だった。若い男をひっかけたシングルマザーと、やっかみ半分な母への悪口が由美の耳に届くこともあったが、由美はそれを誇らしく思っていた。それくらい母は魅力的なのだと、受け止めていた。そして母親似である自分は、きっとすてきな恋愛ができるだろうと考えた。
 父親は由美が幼稚園のころに亡くなってしまったので、ほとんど記憶にない。写真で見る父はやさしそうで、一緒に映っている母は幸せそうだった。
 女手ひとつで自分を育てるのは、たいへんだったろうと思う。だから母から恋人ができたと告げられたときは、忙しい中でも“女”を忘れなかった母が誇らしく、父親ができるかもしれないという期待に、胸が躍った。
 高校生の由美は友だちに言うように、彼氏に合わせて欲しいとせがんだ。しぶっていた母が根負けをしたかたちで連れてきたのは、大学生みたいな男だった。
 40歳の母に、28歳の男。
 いまの私と聡さんと、同じ年。
 だからいま、覚悟を決めてアタックしようと決めたのだ。聡さんが年齢差にひるまずに、母に交際を申し込んだ年になったから、おなじようにしようと決意した。

「けどちょっと、やりかたがまずかったかなぁ」

 いきなり体の関係からはじめよう、なんて大胆すぎたかもしれないと、由美は反省をしていた。
 やったことに、後悔はない。いつまでも子どもあつかいをする聡に、大人の女であることを充分に知らしめたかった。
 聡の股間の反応を思い出し、由美はほくそ笑んだ。 
 私を女として意識したんだわ。
 けれど、聡さんはとっても冷静なかんじだった。股間は反応しても、理性は女として認めてくれていないってこと?

「長かったもんなぁ」

 由美は太く長いため息をこぼした。
 母が聡を由美に紹介をしてから、かれこれ12年になる。
 ここでもまた、12の数字だ。

「ああもう、ほんと。なんなの?」

 12という数字に、翻弄されている気がする。
 12年で干支がひとまわり。時計の表示も12で、1年は12ヵ月。

「呪いみたい」

 12の呪縛。

「お祓いにいってみようかなぁ」

 本気とも冗談ともとれる自分のつぶやきに、由美はバカらしくなった。

「こだわらなくてもいいのに」

 聡に告白をしようと、何度も思った。彼と母が別れてからも、由美は彼のマンションに通い続けた。
 飲み会で酔っ払ったから休ませて欲しいと、インターフォンを鳴らした。
 彼氏と別れたからなぐさめてと、甘えに行った。
 聡は困ったようにほほえみつつも、いつだって由美を受け入れてくれた。それをうれしいと感じると同時に、恋人である母の娘だからだろうなという悲しみに沈んだ。
 母と聡は3年2ヵ月で別れた。
 その後も由美は、聡のところへ転がり込んだ。そうすると聡は、いそいそと母に連絡を入れた。恋しい人の声を聞けると浮かれた気配をにじませながら、保護者の顔で電話をしていた聡の姿が、とても切なかった。
 私もおなじだよ。
 何度、そう心で叫んだことか。
 相手が違う人を想っていると、わかっていながら声が聞きたい、姿を見たいという切なる願いの苦しさだけが、聡との共通点。
 あとは、干支かな。
 由美が実感できる、彼とのつながりはその程度だった。

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12の呪縛

12の呪縛不器用な年の差恋愛

著  者
水戸けい
イラスト
国原
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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