窓際係長は私を好きすぎて出世できない

宇田秀明。37歳、独身。窓際という言葉を体現する男。
第2回

宇田秀明。37歳、独身。窓際という言葉を体現する男。

2016/05/30公開
「いてっ」

「きゃっ……え!?」

 何者かが声を上げるのと、美和子が驚いて叫ぶのは同時だった。
 視線をそろそろと下に向けていくと、右足のヒールが紺色の物体にめりこんでいることがわかった。
 硬直して動けない美和子の前で、それはぐるりと体勢を変えてこちらをにらむ。
 こんな忙しいときに、そしてこんなほこりっぽい場所にも関わらず、書類の束を枕と布団代わりに男性社員が昼寝をしていたらしい。
 社員だとわかったのは、彼が高級な生地のビジネススーツを着ていたこと、首から社員証がぶらさがっていたことにある。

「むっ……誰かくるなんて、聞いていないぞ」

 つぶやく顔は平凡そのもの。
 眠そうにぼんやりと開いた茶色い瞳に、いまはしわが寄せられている整った眉、あまり高くはない鼻筋、薄い唇、くせのある髪の毛――美和子は、この人を知っていた。

「う、宇田係長っ!?」

 宇田秀明。37歳、独身。窓際という言葉が似合う者はいない
 窓際という言葉がこれほど似合う者はいないであろう、名ばかりの係長で、普段は美和子と同じ部署で働いている。
 しかし彼のやる気のなさは、配属当初から美和子の目に余るほどで、向上心の強い美和子は挨拶程度しか交わしたことがなかったのだが、日に日に彼が嫌いになっていった。
 先輩の話によると、社長の親戚に当たるため解雇されることはないのだという。
 それなりの地位と役割を与えられたあとは、お膳立てのような環境がそうさせるのか、宇田は仕事に身を入れることがなく、いつもつまらなそうにデスクに向かい、思い出したようにときおり長時間どこかに姿を消してしまう。
 その行き先がいま、ようやく判明した。
 ここに行かされるというのに誰にも指摘されなかったが、彼が4階の部屋を管理する責任者であることも思い出された。
 宇田はおそらく、鍵を預かっている立場をいいことに、人がこない時間と場所を見計らい、昼寝場所として好きに使っていたのだ。
 それが本当であれば、美和子はもとい、会社にとっても許しがたい事実であろう。

「……佐々木さん?」

 問うような声音で名を呼ばれ、美和子は現実に意識をはっと引き戻す。
 宇田がどのように会社で振る舞おうと、いっかいの事務員にすぎない自分には何も言う権利などない。

「あ、あの……私、資料室の整理にきたんです。校了は明日なのに、写真のデータに不備が見つかって――」

「どけてくれる?」

「は……?」

 懸命に現場の非常時を訴えているというのに、宇田は不機嫌そうにそんなことを言う。
 思わず眉をひそめた美和子だったが、次の瞬間にいまだに宇田の脇腹を踏んだままであることに気づいた。

「あっ、す、すみません、いま……」

 しかしあわてて脚を引き、謝ろうと身を屈めようとしたのがいけなかった。
 タイトスカートに阻まれた太ももが行き場のない力をためこみ、バランスを失った身体が前へと沈みこんでいく。

「あ、あ、あ――」

 まるでスローモーションのように時が流れた。

「ちょっ……君っ」

 宇田があわてて上体を起こすがタイミングがずれ、美和子はもう転んでいた。

「きゃあっ」

「うわあっ」

 ふたりの叫びが重なり合い、ほこりがぶわっと舞い上がる。

「…………」

 痛みを想定して無言でまぶたを閉じていたが、いくら待っても衝撃はやってこない。
 美和子がこわごわ目を開くと宇田の顔が目の前にあって、ひどく動揺してしまう。

「か、係長っ……ご、ごめんなさい」

 呼気が混じり合うほど近くにいた宇田に、美和子がささやくように言った。
 宇田のほうは背中に衝撃が走ったらしく、顔をしかめる様子が痛々しい。

「……っ」

 そうして状況をようやく把握したようだ。いつもぼんやりしている目を、大きくみはった。
 美和子が起き上がろうとするも、先ほど支えようとしてくれたらしい宇田の腕が腰にまわっているので身動きが取れない。
 それどころか、自分の手を動かすたびに何か妙な引っかかりを感じてならないのだ。

「あ、あれ?」

 体勢を立て直すために、懸命に腕を抜き抜こうと上下に揺する。

「くっ」

 するとなぜか、宇田がうめく。

「係長?」

 美和子がさらに手を動かす。

「や、やめっ」

 するとやっぱり、宇田がうめく。
 今度は懇願するようなもの言いに、さすがにおかしいと思い始めたころ、美和子の手の中が熱を持ち、しだいに膨張していく様がはっきりと感じ取れた。
 ま、まさか、これは――!
 美和子の頬が、みるみるうちに赤く染まっていく。
 顔を覆いたくなって、つい強く腕を引いてしまい、さらに宇田が身をよじった。
 宇田の脚のあいだに、覆い被さった美和子の腕が挟みこまれた格好となっていて、美和子が動くたびに、宇田の股間を刺激することになってしまっていたのだ。
 宇田の鋭い視線が、美和子のふるえる瞳に突き刺さる。
 美和子は硬直して、真っ赤な顔で必死に謝罪を繰り返した。

「係長……ご、ごめんなさい、私、そんなつもりはっ……ぜんぜん――んぅっ!?」

 美和子は驚きに目をむく。
 急に息苦しさに襲われたと思ったら、やわらかな感触に口をふさがれていた。

「んん! ……ふ、ふあっ」

 顔を背けようにも、腰を引き寄せられて、さらに奥深く口づけられることになる。
 宇田は執拗に唇を吸い、角度を変えて何度も舌先をすべらせてきた。

「はあっ……や、ん……!」

 息継ぎをしたところで、歯列を割られて口腔に押し入られる。
 薄い唇からは考えられないほどの肉厚な舌に頬の裏から口蓋をなぞられ、美和子の内側には自然ぞくぞくとした痺れが駆け抜けていった。
 それを感じ取ったのであろうか、宇田の手が下から這わされ、すくい上げるように胸を揉まれた。

「ああっ……」

 感じてなどいないはずなのに、美和子の口からは甘いあえぎが漏れてしまう。

「いつもこんなにエロいブラウスなの?」

 ようやくまともに口を開いた宇田が、うっすらと下着が浮かぶ美和子のブラウスを前に、ひどく扇情的な声で問うてきた。
 首筋に吐息がかかり、思わずぞくりと身体をふるわせる。

「え、エロくなんかっ……そ、それより、や、やめっ……」

 起き上がろうとした抵抗もむなしく、宇田は強い力で美和子をぐるんと身体を入れ替えて床に押し倒した。
 そしてブラウスのボタンを、器用に片手で外していく。

[eロマンスjpの連載情報はツイッターでcheck!]

小説一覧 コラム一覧 コミック一覧
トピック一覧 特集一覧 TOPへ戻る

▼まとめ読みしたい方は書籍購入ページへ▼

全話スグ読める電子書籍はコチラ↓

窓際係長は私を好きすぎて出世できない

窓際係長は私を好きすぎて出世できない

著  者
御子柴くれは
イラスト
ルシヴィオ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

以下の書店名をクリックすると、電子書籍版の購入ページへ移動します。

配信書店の一覧はこちら