クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい

クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい
第1回

クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい

2016/09/30公開
 38階建ての巨大なビルの、1階の片隅にわたしが勤めるドラッグストアがある。
 上階にはオフィスが多数、入居している。
 わたしは管理栄養士で、ドラッグストアに来店するお客さまの食事相談などを受けている。
 ドラッグストアに栄養士がいるのは珍しいと言われるけれど、最近は少し増えてきていると思う。
 糖尿病などの病気を持っている人や、健康診断で引っかかった人、またはダイエットをしている人、スポーツをしている人など……食事に関する相談をしにやってくる人はけっこう多い。
 仕事はやりがいがある。職場環境もいい。
 実家は都内だけれど、最近ひとり暮らしを始めた。おままごとのような生活も、まだ新鮮なせいか楽しい。
 とくに不満はない。恋人がいない、ということをのぞけば。
 わたしは今年26歳になるけれど、彼氏いない歴=年齢で、当然だけど処女だ。そろそろ、ちょっとまずいかもな……という気がしている。
 今日は1時からお昼休みをもらった。2時までに戻ればいい。白衣を脱いで店を出ると、夏のむあっとした空気に包まれる。ホールの中ほどまで行き、エレベーターに乗るとすうっと汗が引いた。
 何人か同乗していたが、シューっと上がっていくあいだにどんどん減っていく。
 最上階で降りたのはひとりだけだった。静かで明るいフロアには人影がない。ビルの中に入っているオフィスの倉庫に使われていたりするらしい。そこからさらに階段で、半階ほど上る。

(やっと、着いた)

 目の前に、オフィスビルには似つかわしくない古めかしい木製ドアが現われた。上部は半円形で、色はダークブラウン、漆喰の壁が似合いそうな雰囲気だ。

(今日も、開くかな?)

 いつも、ちょっとドキドキする。いけないことをしているような感じがある。だってここは……。
 ドアは、開いた。あっけなく開いてしまうのはいつものことだ。

(やった。今日も入れた。わたしだけの、『秘密の花園』)

 そこは、一歩中に踏み込むだけで濃い緑の匂いが鼻をつくほどの、室内庭園。巨大なビルの中になぜかひっそりと存在している。
 鬱蒼とした樹木、下草。野生種に近いような素朴な雰囲気のマーガレットがちらほら咲いている。水の流れる音が心地いい。
 ここでは、どういうシステムを使っているのかはわからないのだけれど小川が流れ、中央に小さな池まで存在するのだ。空間そのものは、そんなに広いわけではない。たぶん40平米くらいじゃないだろうか。

(いつ見ても、まるで魔法みたい)

 池のそばに、小さなベンチがある。いつものようにそこに腰かけた。それだけでうれしい気持ちになった。
 正確に言えば、ここは“屋上”庭園ではない。上を見上げても、空は見えない。どこからか外の光を取り込んでいるのはわかるのだが、直射日光が地面に直接差し込まないように調節しているように感じる。庭園内の温度もたぶん、人工的に管理されているのだろう。
 池に咲く睡蓮の花の下ではメダカが泳いでいる。
 なぜ樹木がちゃんと立っているのか、川が流れているのか、そして池に住む生き物たち……これらの世話をしているのは誰なのか。わたしはまったく知らない。同僚の誰かにこの場所のことを話したこともない。

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クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい

クールなイケメンはぽちゃガールを溺愛したい

著  者
乃村寧音
イラスト
柾木見月
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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