異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

世界にはそっくりさんが3人いるって言うし
第1回

世界にはそっくりさんが3人いるって言うし

異世界で奴隷になりましたが
2016/10/28公開
 夜も深まり、魔術灯のごく淡い光だけが光源として存在する寝室のベッドの端で男女が睦み合っている。
 男のほうは寝間着を脱がずにズボンの前だけをくつろげ、足を床に置くかたちで腰掛けている。
 見せるためではない実用的な筋肉と死線を幾度もくぐり抜けたことがわかるたくさんの傷跡。
 グレーの短髪に曇り空から見えるような鈍い青の瞳、精悍な顔つきの彼を市井の女性たちは放っておかず、一夜限りの約束でたくさんの女と関係を持った。
 ある日を境に彼はそれに応えることはなくなってしまったが。
 そしてその向かい、ひざまずいた少女が彼の股座に顔をうずめて卑猥な水音を響かせている。
 年のわりに小柄な彼女は長い黒髪を耳にかけ、一糸まとわぬ姿で男に奉仕している彼女の伏せられた目もまた黒く、闇夜を具現化したようだと男は思う。
 女性らしい曲線を描いているが細く、ささやかな胸に小ぶりな尻。 
 あまり肉のついてない若い雌鹿のような身体。
 細く白い首には、見目よりも実用性を優先したであろう無骨な金属の首輪に男の所有を示す紋章が刻まれている。
 小さな頭を気まぐれになでてやると、黒い瞳が問いかけるように男の顔を見上げる。

(恐ろしく似ている。だが、あれはもっとこう……)

 男の脳裏に『少年』の姿が浮かぶ。
 細く繊細な体、まだ声変わりを迎えていない声で紡がれる言葉、まるで生娘のようにきめ細かく白い肌、艶やかな黒の短髪に黒の瞳。
 悪夢のような屈辱と悦楽の数日間。
 こちらを蔑みながら楽しそうに笑い、己の身体を翻弄した少年。
 あれはまぼろしだったのだろうかと思う日もあるが、あまりに鮮明な記憶を否定はできなかった。
 男の身体は、あの日を境にはっきりと変質してしまったのだから。

「……もういい。ありがとう、チカ」

「はい、ダグラスさま」

 終わりを告げると、少女が小さな口を彼自身から離す。
 まろびでたそれはくたりとしてやわらかいが、欲を放出できたからというわけではない。
 少女に奉仕させてもまったく熱を持たない自身に今夜も失望する。少女の口と自らの鈴口をつなぐ唾液の糸も、なめらかな白い身体も恐ろしいほど扇情的だが男のモノはぴくりとも反応しない。
 ダグラスのモノをあらかじめ用意していたお湯と布で清め、仕事を終えた少女が服を着るのを目の端にとらえながら、『少年』のことを思い出す。
 あの嗜虐的な微笑み。
 意地悪く端の上がった口。
 痩せて起伏のない身体。
 細く頼りない首についていた無骨な首輪。
 自分の意思に反していいように翻弄された己が身体。
 それらを鮮明に思い出せば、自身のものがぴくりと動こうとする。

(違う。俺は同性愛者じゃない。少年趣味なわけでもない)

 かぶりを振って灯りかけた熱をかき消す。

 ダグラスが好きなのは肉づきのいい豊満な肉体。
 やわらかく甘い香りのする肌。
 そういった女体を愛していた。
 1年前までは。
 いま、彼の頭の中を占めるのは――。


「どうしてこうなった……」

 頭を抱えてうめいたダグラスは、彼を静かに見つめる少女の視線に気づかなかった。


◇ ◇ ◇


 1年前、騎士のダグラスは功をあせり、隣国の敵軍に捕虜として囚われたことがあった。
 最終的には仲間の助けもあり脱出したあと、内部にいたときの情報を使い、その部隊を殲滅し手柄としたが。その武勲が評価され、いまは王宮騎士団第三部隊の隊長を任されている。
 囚われた数日間のことは、いまでもありありと思い出せる。
 敵軍の男たちは徹底的にダグラスをいたぶった。
 うしろ手に枷をはめられ、地下牢の固い床に転がされたときの屈辱。
 薄暗い牢で殴られ、罵られ、最低限とも言えない食事を与えられるだけの毎日。
 虜囚が死なないようにと、世話係として置かれた『少年』にダグラスは人生を狂わされた。
 数日間、世話ついでに『少年』の鬱憤ばらしに使われたダグラスは仲間と共に自国、ウィステリアに帰り、褒賞金で娼館に行き、女を抱こうとしたときに自身の変化に気づいた。
 女を、抱けなかったのだ。
 娼婦が持てる技の限りを尽して彼をあおりたてたが、ダグラスのそれが熱を持つことはとうとうなかった。
 最初は疲れからだと思った。
 いつにない展開からの帰還で、うまく乗り気になれなかったのだと。
 だが、その後、何度挑戦しても彼は女を抱けなかった。
 どんな女でも、何をされても。
 ある晩にやけくそになり酒に溺れ、部屋でひとり自慰に励んだ。

 なんでもいい。
 興奮できるものはないのか。

 豊満な胸? 違う。
 やわらかい肌? 違う。
 甲高い嬌声? 違う。

 金髪よりは暗い髪色のほうがいい。
 そうだ、黒髪で、肌は白くて、細い。
 髪は豊かに長くなくていい。

 むしろ短くて、たとえば――あの『少年』のような。

 脳内で『少年』の像が結ばれた瞬間、ダグラスの手の中で欲望がはじけた。

[鳥下ビニール 作品一覧]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[4]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[3]
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異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

著  者
鳥下ビニール
イラスト
国原
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
92 円(税抜)
シリーズ
異世界で奴隷になりましたが
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