衝動買いだったのは認める。

 そもそも奴隷など悪趣味な存在だ。
 本人の意思を無視して隷属を強い、給料も与えずに過酷な労働を行なわせる。
 愛玩奴隷など、その最たるものだ。
 うら若き娘、時には少年に無体を働く。
 本人に責はないというのにだ。
 俺は奴隷や奴隷をあつかうヤツらをずっと好きになれなかった。
 その日奴隷市場などに訪れたのも、引ったくりを追いかけて入り込んでしまっただけでまったくの偶然だった。
 衛兵に不届き者を引き渡し、辺りをぐるりと見渡す。
 奴隷市場も街の中にある。街の、ひいては国の治安は我々騎士が守るべきものだ。
 国民に対して好き嫌いなどあってはならない。
 あくまで彼らは(俺の眼の前では)合法行為しか行なっていないのだから。
 奴隷競売では、体型のわかる薄衣のみを着せられた奴隷たちが競りにかけられていた。
 下卑た視線が女奴隷たちに注がれ、彼女たちは不安そうに立っている。
 胸クソの悪い光景に、ただでさえ険しい顔がますます険しくなる。
 見回りをすましたらすぐさま立ち去ろうとしたところで、歓声につられて競りに目をやってしまい『商品』を認識したとたん思考が停止した。

「さぁ本日の目玉商品! なかなかいませんよ? 処女の愛玩奴隷だ!!」

 黒い髪、黒い瞳、白い肌。

『少年』をほうふつとさせる彼女を見て、電流が身体を駆け巡るような心地になる。

「処女だからと甘く見ることなかれ! あらゆるお楽しみをばっちり仕込んであります。清らかで淫らなかわいい愛玩奴隷!! さあ、旦那さま方いかがです!」

 よく見れば身体は小柄ながらもまるみを帯びて、紛れもなく女のかたちをしている。長い髪は丁寧にすいたのかまっすぐに整えられていて、顔も化粧を施されていた。そして不安げに揺れる瞳は『少年』とは違う要素だ。
 だが、あまりにも似ている。
 愛玩奴隷をあつかうのは見下げた行為だ。
 だが、もしかすると彼女であれば、俺はふたたび女に興奮できるかもしれない――。
 それからあとはよく覚えていない。
 競りに参加し、無我夢中で彼女を競り落とした。
 手続きをすませて彼女を連れて帰ると、ひどくおびえた様子でこちらを見ていたが、『少年』のことは伏せて自分の事情を説明すれば、少し安心したように表情をやわらげた。

「では、ご主人さまの助けになれるように精一杯頑張りますね」

 邪気のない微笑みは『少年』の笑顔とまったく違うものだったが、俺は彼女のことを好ましく思った。

「できれば名前で呼んでくれ。ご主人さまと呼ばれるのは慣れないんだ」

「では、ダグラスさまと」

「うん、それでいい」

 物置に適当に入れていたメイド服を渡して、風呂に入ったあとに着替えてもらう。
 奴隷商に施されていたらしい化粧を落とした顔は、市場で見たときよりもさらに『少年』に近く驚かされた。 
 夜のほうも、性技を仕込まれただけあり技術面に問題はなかったが、残念ながら俺のほうに問題しかなかったので本番はまだしたことがない。
 愛玩奴隷として買われたにも関わらず、

「ダグラスさまのお役に立ちたいのです」

 と言って、我が家の家事までしてくれるけなげさには驚いた。
 家事の要領をつかんでからは、忙しい俺を慮(おもんぱか)って弁当まで持たせてくれる。
 うまくやっていけそうじゃないか、そう感じた。



「あ、隊長。今日もお弁当ですか?」

「ああ。やらんぞ」

 お調子者の部下が俺の昼食をのぞき込みながら話しかけてくる。
 昼食にとチカが用意してくれた弁当には、野菜や肉がバランスよく入れられている。
 栄養バランスにも彩りにも配慮しているであろうそれを食べるのがここ最近の楽しみだ。

「ちぇー、いいなぁ隊長。そんなん作ってくれる愛玩奴隷、聞いたことないですよ」

 衝動買いだったのは認める。
 だが、彼女はなかなかいい買い物だったのではないだろうか。

[鳥下ビニール 作品一覧]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[4]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[3]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[2]
異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

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異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

異世界で奴隷になりましたがご主人さまは私に欲情しません[1]

著  者
鳥下ビニール
イラスト
国原
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
92 円(税抜)
シリーズ
異世界で奴隷になりましたが
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