ヴァンパイア・ナイト

ヴァンパイア・ナイト[2-1]嘘つきの言い訳
第3回

ヴァンパイア・ナイト[2-1]嘘つきの言い訳

ヴァンパイア・ナイト
2016/11/28公開
「何もない相手とホテルに? 誰がそんなことを信じるっていうの?」

 瑞穂は思わず語気を強めた。
 写真の男が彰だと確定したことで、怒りに歯止めがきかなくなっている。
 招待客の何人かが、振り返って瑞穂を見た。

(……いけない……目立ってる……)

 目が合った数人に向かい、瑞穂は小さく頭を下げ、きっとした顔で彰をにらんだ。

「……ちゃんと説明して。そもそもどうして女優と知り合いになったの? 職場のあなたはよく知らないけど、こんなパーティーに出席するなんて、らしくないわ。あなたは一匹狼……そうじゃないの?」

「おや、もしかしてやきもちですか? 意外だな」

 くすりと笑った彰を、瑞穂は思いを込めてにらみつけた。

「……ふたりきりになれるところに行きましょうか」

 彰はそういうとさりげなく瑞穂の手を取った。
 触れられたところから、ぎゅっ、と心臓を氷の中につけられたような衝撃が走る。

「ひっ……」

 瑞穂は思わずその手を振り払う。
 この冷たさは、よく知っている。
 それなのにひさしぶりに味わうと耐えられなかった。

「これは失礼。大丈夫ですか」

 彰は傷ついたふうでもなく、穏やかな瞳で瑞穂を眺めている。

「大丈夫……ごめんなさい」

 瑞穂は彰の触れた手のひらを、もう片方の手でぎゅっ、と握った。
 体温はなかなか戻ってこない。

「どうぞ、こちらに」

 彰は先に歩き出し、瑞穂は手のひらをさすりながらそのあとに続いた。


 バルコニーには冷たいビル風が吹きつけていた。
 赤く不気味なまるい月が、少し目線をあげた場所にぽっかりと浮かんでいる。

「夜風が涼しくなりましたね。冬到来……にはまだ早いですかね」

 人好きのする笑顔を浮かべ、彰は話しかけてきた。

「話をそらさないで。ちゃんと事情を説明して」

 瑞穂は険しい表情のまま、目前にある神さまのように整った顔をにらみつけた。

「精神科医の守秘義務はごぞんじですよね」

「当然ね。でも、私たちのあいだでそんなこと関係ないでしょう」

 ひるまない瑞穂の様子に、彰は吹き出した。

「まるで毛を逆立てた猫ですね。こんなかわいらしいあなたを見られるのなら、スキャンダルも悪くない気がします」

 そして彰は真顔になり、瑞穂の顔をまっすぐに見た。

「じらすつもりはありませんから、さっさと説明を終わらせましょう。カオルさんは私の患者です」

「患者?」

 瑞穂は一瞬虚をつかれた。
 言われてみれば、なぜ先に思いつかなかったのか不思議なくらい、その可能性がいちばん高い。

「いろいろあって、私があの方のメンタルをケアすることにななりました。カオルさんは有名人です。心の病を抱えているなどと知れたらそれこそ、へんに騒がれてしまいますし、仕事のオファーも減るでしょう。だからクリニックやあの方の自宅ではなくホテルで診察したんですよ。日本はまだまだ精神医療について無理解ですからね。ハリウッドではアクターひとりずつに専属のカウンセラーがつけられていると言うのに……」

 彰は情けないと言いたげに肩をすくめた。

「一緒にホテルに入ったのはなぜ?」

 瑞穂は追求を続けた。

「その前にふたりで食事をしました。カウンセリングの一環です。公共の場にいるときと、マンツーマンになったときとの落差を見る必要がありましたから。ここに来たのも観察のためですよ。残念ながらすっぽかされたようですが……おそらくなんらかの症状がでたのでしょう。そのうち、私の携帯に連絡が来るはずです」

 瑞穂はまじまじと彼の目を覗き込んだ。

(一応つじつまは合っているわ……)

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ヴァンパイア・ナイト

ヴァンパイア・ナイト愛蜜の牙は生贄の乙女を愛でる

著  者
桐野りの
イラスト
純友良幸
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
シリーズ
ヴァンパイア・ナイト
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