藤薫る恋に酔う

[1-3]痕跡のない同級生
第3回

[1-3]痕跡のない同級生

2017/04/04公開
「っあ……」

 思わず声をあげた美紀の唇に、薫の唇が重なる。

「んっ、う」

 果実酒のように甘いキスと花の香りに、美紀の頭の芯がしびれた。

「ふっ、はぁ、あ」

 信じられないほどあっけなく、体中が淫靡な熱に浸される。彼の香りはまるで、媚薬だった。

「んぅっ、あ……まって、ねぇ、ああ」

 自分の変化が恐ろしくて、美紀は薫の腕をつかんだ。薫はいたずらっぽく目を光らせて、大丈夫だと美紀の耳に息を吹き込む。

「は、ぁあ」

 それだけで体が震え、脚のあいだが切なくなった。魂をじかに愛撫されているのではと思うほど、薫から発せられるすべてに反応してしまう。

「おかしいの、ねぇ……私、おかしい」

「おかしいことなど、何もない。美紀……怖がらなくていい」

 美紀は首を振った。キスだけで、心がとろけるほどに心地いいなんて。
 しびれにも似た浮遊感に包まれた美紀は、どこかに流されてしまいそうな不安にかられ、すがるように薫を見た。

「美紀」

 やわらかく呼ばれて抱きしめられる。彼の胸に顔が埋まり、むせかえりそうなほどの花の香りを味わった。この香りを、美紀はたしかに知っている。しかしそれがなんなのか、わずかも思いだせない。

「う……」

 香りに包まれていると、体の奥が蜜のようにとろけた。抱きしめられているだけなのに、気持ちがいい。やすらぎと共に与えられる濃艶な刺激に、どう対処をすればいいのだろう。

「美紀」

 薫の声は美紀の意識に直接響いた。

「これからは、ずっと一緒だ」

 それが当然のように思えてくる。いままで離れていたことが不自然なように感じられて、美紀は顔を上げた。額にキスをされる。

「松原美紀。君は私の伴侶となる。さあ、約束を果たそう」

 厳かに告げられた言葉が妙だとは、思えなかった。薫の瞳が薄紫に輝いている。その目を、美紀は知っている。とても大切な宝物だと、心の奥底にしまいこんでいたものだ。それをいますぐ取り出したいのに、どこに在るのかわからない。

「私……」

 はい、と受諾しかけるのを、美紀はこらえた。意識は朦朧としているが、理性が失われたわけではない。

「あなたは誰なの」

 美紀は問いを繰り返した。薫はいとおしそうに目を細めて、美紀の唇を指でなぞる。

「わからないか。まあ、無理もない」

 ざわりと、何かがベッドの下でうごめいた。おそるおそる首を向け、それを目にして息を飲む。

「な……に、これ」

 ベッドの下からつると呼ぶには太く、しなやかな木の枝が伸びていた。

「私が誰だか、これでわかっただろう」

 しなやかな木の枝と花の香り、やわらかな声音がカチリと、探していた記憶の鍵穴に当てはまった。
 美紀はゆっくりと驚愕に目を開く。忘れていたことがウソのように、急速に彼に関する記憶が録画を早送りで観ているように、よみがえってきた。

「まさか、そんな……」

 それは、子どもの夢想だったはず。現実であるわけがない。
 美紀はきしむ音が聞こえそうなほど、ぎこちない動きで薫に顔を戻した。驚くほどの勢いで引き出された記憶は、まぶしいほどに鮮明で、一気に子どもに戻ったような、まだ自分が小学生であるかのような錯覚を起こさせる。

「……藤の、人」

 夢見るようにつぶやけば、薫がやさしく首肯する。

「約束を果たそう、美紀」

 あらがいがたい誘惑と郷愁が、美紀を襲った。

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藤薫る恋に酔う

藤薫る恋に酔う仮初の恋人

著  者
水戸けい
イラスト
広瀬コウ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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