藤薫る恋に酔う

[4-3]決して離れない
第14回

[4-3]決して離れない

2017/04/19 ~ 2017/04/26 まで公開
「ふう。ごちそうさま」

「コーヒーを淹れようね」

 美紀が食べ終わると、薫が席を立った。彼といると、自分が大人なのか子どもなのか、わからなくなる。美紀は飛び跳ねるように立ち上がり、テーブルの上を片づけた。シンクに食器を置いて、コーヒーを淹れている薫と軽いキスを交わす。そして冷蔵庫からケーキを取り出し、運んだ。
 薫がコーヒーを持ってくる。それと入れ替わりにキッチンに戻った美紀は、フォークを2本持って戻った。

「まるいケーキに、直接フォークを突きたてて食べるの、ちょっと夢だったんだ」

「まるいケーキ?」

「お祝いだから、まるいケーキにプレートをつけてもらったの」

 浮かれた気分のまま、美紀はケーキを取り出した。

「じゃーん」

 まるいシンプルなイチゴケーキの上には、ふたりの名前の間にハートマークが書かれたチョコプレートが乗っている。

「美紀。これは、どういう意味かな」

 美紀は目尻をとろかせて、薫に抱きついた。

「私と薫が、ひとつになるお祝い」

 子どもが親に甘えるように、美紀は薫のひざに甘えた。

「結婚式とか、そういうんじゃないよ。そういうのは、お世話になっている妖怪の人たち……っていうのもへんだけど、そういう人たちを集めてあいさつとか、きちんとしたいし」

 美紀は無反応な薫が、驚いているだけだと考え、鼻先にキスをした。

「美紀」

「なぁに」

「どういうことなのか、説明をしてくれないか」

 美紀は目をまたたかせた。

「どういうも、こういうも。そのまんま、言葉の意味よ」

 美紀は肩をつかまれて、引き離された。

「どうしたの、薫」

 いぶかる美紀の目に、硬い表情の薫が映る。彼のそんな顔を、はじめて見た。美紀はとたんに不安を覚え、浮かれた気分が急降下して地の底に向かうのを感じた。

「……薫?」

「どういう認識で、その言葉を発したのかを、きっちりと教えてほしい」

 ゆるやかな旋律のいつもの声とは違う、硬く無機質な薫の声音にひるむ。

「美紀」

 美紀は唇を震わせて、テレビ台の隅に置いていた学校だよりをつかみ、薫に突き出した。受け取った薫が、ゆっくりとページをめくり確かめる。無感動な姿に、美紀の胸は激しくきしんだ。悲しみと怒りが足もとから這い昇る。

「なんとも思わないの?」

 激情を押さえた美紀の声は震えていた。学校だよりを閉じた薫は、静かな目をしていた。薄紫に輝く瞳は、うんと遠い時間を旅してきた、老成した輝きを放っている。それがさらに、美紀の胸を苦しくさせた。彼と自分の生きている時間の流れは違うものだと、無言で知らされる。

「薫は、伐られてしまうのよ」

 鼻の奥がツンとして、目頭が熱くなった。

「このままじゃ、死んでしまうわ」

 喉の奥からしぼり出した自分の声に打ちのめされて、美紀はこぶしを握ってうつむいた。涙がにじみ、あふれて落ちる。

「薫が消えちゃうなんてイヤ。会えなくなるなんて、ぜったいにイヤだから!」

 美紀は彼を夢想だと自分に言い聞かせ、忘れようと苦しんでいた子どもの自分を思い出した。あのときの悲しみや胸の痛み、悔しさなどが織り交ざり、下唇をかむ。

「美紀」

 困り果てた弱々しい薫の声に、美紀はますます喉を詰まらせた。

「っ、私……、ごめんなさい」

「どうして謝られるのか、わからないな」

「忘れようとしたのに……忘れていたのに、こんなことを言っている私、すごく勝手だ」

「美紀はなんにも悪くない。忘れようとするのは、あたりまえだと前にも言ったはずだよ」

 美紀は首を振り、ごめんなさいと繰り返す。

「それがあるから、信じてもらえないんでしょう?」

「美紀。きちんと説明をしてくれないか。ひとつになる祝いの意味を」

 美紀は深呼吸をして涙を落ち着かせた。

[水戸けい 作品一覧]
12の呪縛 不器用な年の差恋愛
平安蜜戯 囚われの姫君は愛欲の逢瀬に喘ぐ
おいしい彼氏 豹変イケメンに翻弄されています!
海の王子の淫らな求愛 閨の初めは下僕の触手
心をまぁるく焼き上げて 甘くとろける無骨な溺愛
泡沫 甘濡れ婚淫譚
人魚王子の淫らな指先 蜜に濡れるシャワー室

[eロマンスjpの連載情報はツイッターでcheck!]

全話スグ読める電子書籍はコチラ↓

藤薫る恋に酔う

藤薫る恋に酔う仮初の恋人

著  者
水戸けい
イラスト
広瀬コウ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

以下の書店名をクリックすると、電子書籍版の購入ページへ移動します。

配信書店の一覧はこちら