藤薫る恋に酔う

[4-4]決して離れない
第15回

[4-4]決して離れない

2017/04/20 ~ 2017/04/27 まで公開
「私、知っているの。本体を伐られたら、薫が消えちゃうって。昔話ではみんな、そうだったもの。薫だって、うすうすは感じていたんでしょう。本体の近くの会話は、離れていても聞こえていたんじゃない? 伐られるって、わかっていたはずよ」

 美紀が顔を上げてにらむと、薫は悲しげに唇を引きしめた。

「どうして、黙っていたの」

 薫は細く長いものうげな息を吐くと、美紀の視線をまっすぐに受け止めた。

「いずれ、こうなるだろうとは、わかっていたんだ。すまない、美紀」

「…………どうして、謝るの」

 薫はやるせない顔で立ち上がり、悲しみをたたえた瞳のまま、ほほえんだ。

「美紀を苦しめるとわかっていたのに、私は望みを抑えられなかった。伐られることは、再会の日よりも前に知っていたから。美紀の前に現われれば、悲しませる。別れのつらさを味わわせてしまう。そう思いながら、私は美紀に声をかけたんだ。わずかな時間でも、また君と過ごしたかったから。勝手なのは、私のほうだよ。……だから、すまない」

「謝らないで!」

 美紀は体当たりをするように薫にしがみつき、必死に訴える。

「どこにも行かないで。ずっとそばにいて。ねえ、できるんでしょう? できるって聞いたの。魂の核を私の体に移せば、藤は枯れてしまうけど私の命がある限り、ずっと薫は生きていられるんだって。ねえ、薫……そうなんでしょう? だから私、今夜はそうしてもらおうって、ひとつになるお祝いをしたの。薫は喜んでくれるって思ったから。それなのに、どうして……どうして、謝ったりするのよ」

 体中から想いをほとばしらせて、美紀は薫を抱きしめた。

「離さないから。ぜったい、死んだって離れないから。薫が伐られたら、私も死んじゃうんだから」

「美紀」

「生きていても、死んでいるのとおんなじよ。……ねえ、薫。私を殺したくなかったら、私に核を移して」

「美紀」

 美紀は祈るように薫の胸に額を乗せた。藤の香りが鼻孔を満たす。

「私をひとりにしないで」

 美紀は震える声で懇願した。薫の手が迷いながら、美紀の背中に添えられる。

「自分がなにを言っているのか、美紀はきちんと理解ができているのかな」

 教師が教え子に問うような、やわらかなもの言いに美紀はうなずく。薫の手が美紀の髪をすくようになでた。

「私を生かしたい、という問題だけではないんだよ」

 美紀は薫をどこにも行かせないと、抱きしめる腕に力を込めて伝えた。

「美紀は死ぬまで、私を背負っていかなければいけなくなる」

「とり憑かれるようなものなんでしょう」

「まあ、そうだね。私は美紀の命に憑く。つまり美紀が、誰かほかの……人間の男と恋をして結ばれたいと望んでも、私の存在が障壁になってかなえられなくなるんだ。美紀の人生の可能性を、私の存在が潰すのだと理解をしてはいないだろう」

 美紀は驚き顔を上げた。

「そんなことを、気にしていたの」

「そんなこと、という軽いものではないよ」

「だから、その……私の中に入らなかったのね」

 ちょっと頬を赤くしながら聞くと、薫は柔和に目を細めた。

[水戸けい 作品一覧]
12の呪縛 不器用な年の差恋愛
平安蜜戯 囚われの姫君は愛欲の逢瀬に喘ぐ
おいしい彼氏 豹変イケメンに翻弄されています!
海の王子の淫らな求愛 閨の初めは下僕の触手
心をまぁるく焼き上げて 甘くとろける無骨な溺愛
泡沫 甘濡れ婚淫譚
人魚王子の淫らな指先 蜜に濡れるシャワー室

[eロマンスjpの連載情報はツイッターでcheck!]

全話スグ読める電子書籍はコチラ↓

藤薫る恋に酔う

藤薫る恋に酔う仮初の恋人

著  者
水戸けい
イラスト
広瀬コウ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

以下の書店名をクリックすると、電子書籍版の購入ページへ移動します。

配信書店の一覧はこちら