藤薫る恋に酔う

[4-5]決して離れない
第16回

[4-5]決して離れない

2017/04/21 ~ 2017/04/28 まで公開
「私、薫の言う機が熟すっていうのは、藤の開花の時期だと思ってた。……私に覚悟があるのか、見定めるって意味だったのね」

「私の気持ちもだ。美紀の人生の可能性を、奪ってしまっていいものか迷っていた。美紀のためを思うなら、静かに消えるべきなんだろうが、そうはできなかった。美紀の前に姿を現わしてしまった時点で、私はもう、美紀を悲しませる罪を犯していたんだ。それなのに、君のこれからの人生を奪う覚悟を持てずにいる」

「……それは、どうして?」

「愛しているからだ、美紀。君がくれた約束を、私はずっと大切に温めながら過ごしていた。人間の寿命は短い。私と会話を交わすことのできたものは、美紀だけではなかった。しかしなぜか、美紀との思い出や約束だけが、太陽の光よりも温かく、そよ風よりもやさしく、私の魂を満たしてくれた。……すまない、美紀。私を忘れようと努力した美紀の、封じていた記憶のふたを開けてしまった」

「薫」

 美紀は薫の頬に手を添えて、慎重にキスをした。ふわりと藤の香りがする。

「薫は、私がずっと忘れないでいたから姿を現わせた、って意味のことを、前に言っていなかった?」

「ああ。言った」

 美紀は笑みを深めて、薫の藤色の瞳を覗きこむ。

「私はすっかり忘れたつもりでいたけど、無意識の部分では忘れていなかったってことよね。それとも、薫がウソをついていたの?」

「美紀、私は……」

 薫は眉間にシワを寄せて、言葉を飲み込むと目を閉じた。その目を開きため息をこぼした薫が、美紀の瞳にキスをする。

「ウソではないよ。それがうれしくて、私は気持ちのままに後先を考えず、美紀の前に姿を現わしてしまった」

「大人になった私が約束どおりに現われると信じて、人間社会で生きていくための勉強をしてくれていたのよね」

 薫がうなずく。

「だったら、いまさら悩む必要なんて、ないじゃない」

 美紀は体中の愛おしさを視線に込めて、薫を見つめた。

「答えはもう、出ているはずよ。薫は私と生きていく準備を、ずっとしていたんでしょう」

「……美紀」

 薫の頬が上気する。

「私の魂と薫の核がひとつになったら、おなじ時間を過ごせるのよね」

「ああ、美紀。私は美紀とおなじ速度で年を重ね、老いていく」

「そして同時に、あの世へ旅立てるのね」

 肯定のキスをされ、美紀は「すてき」とつぶやいた。

「愛して、薫。私の中に核を埋めて」

「美紀がこんなに強い人だとは、思わなかったな」

「薫が強くさせているのよ。もう、ぜったいに離れたくないって気持ちが、私を強くしているの」

「私への愛が、美紀を強くしている?」

「そう言われると、なんだか恥ずかしいな」

 美紀は全身で薫に甘えた。

「でも、薫もそうでしょう。人間の時間って、すごく短く感じられるんじゃない? それなのに、私に核を移して生きるのは、怖いと思わないの」

「私はもうすぐ伐られてしまう。美紀とひとつになれば延命ができるから、その考えは当てはまらないな。それ以前に、美紀と過ごせない時間は、私にとっては不要なものだからね。……だから、美紀がほかの誰かに心を寄せる前に、伐られて消えるならいいと思っていた」

 ふたりは同時に笑い出した。

「薫ってば、ひどい。心変わりをされたらイヤだからって、伐られることを黙っていたのね。学校だよりが届かなかったら、とんでもない悲劇を迎えるところだったわ」

「すまない、美紀。信じていなかったわけではないんだ。私が弱かったせいで、たいへんなあやまちを犯しかけていた」

「ほんと、そう。ああ、間に合ってよかった」

「美紀、ありがとう」

「うん……。薫、ねえ」

 言葉にしなくても、美紀の心は伝わった。ふたりは少し距離を開けて邪魔なものをすべて脱ぎ去り、顔を寄せる。キスを交わしていると足もとから藤の枝が伸びてきて、美紀は両手を頭上に上げて、枝を絡ませた。美紀の脚がわずかに宙に浮くと、薫は甘くてとろみのある恍惚を浮かべ、魂の震えを吐息に変えた。

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藤薫る恋に酔う

藤薫る恋に酔う仮初の恋人

著  者
水戸けい
イラスト
広瀬コウ
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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