触れられずの姫と執愛の魔術師

[1ー3]監禁
第3回

[1ー3]監禁

2017/05/02公開
『だって、あなたは私に笑ってくれたじゃない』

 アルフレッドは言葉を失った。そんなあたりまえのこと――それはアルフレッドの正直な感想だったが、そのあたりまえさえ王女という立場のクリスティーヌには得られないものだったのだ。
 こうしてクリスティーヌはアルフレッドと頻繁に会うようになり、ふたりは次第に仲を深めていった。それはクリスティーヌにとってもアルフレッドにとっても、とても心地のいい時間であり、とくにアルフレッドはいつまでもこんな日が続いてほしいと願っていた。
 しかし別れは突然やってきた。
 ある日、いつものように町はずれの川縁までアルフレッドに会いにきたクリスティーヌだったが、その顔はいつにないほど舞い上がっていたのである。
 当然ながらアルフレッドは、すぐに理由を尋ねた。すると返ってきたのは、彼を奈落の底に突き落とすだけの威力がある言葉だった。

『私ね、アルフレッド。婚約者ができたのよ』

 このときアルフレッドはすでにクリスティーヌを愛しており、彼女が成人するまでそばで見守っているつもりだった。国いちばんの魔術師と誉れ高い自分ならば国王とていずれ結婚を許してくれるだろうと、魔術の勉強も一日とて怠ることはなかったのだ。
 そんなアルフレッドにとって、クリスティーヌの告白はとんでもない裏切りだった。

『……相手は誰だい?』

『お隣のドリュモア王国のエドワード王子よ。私と同じ年なんですって』

 恥じらいに頬を染めるクリスティーヌを前に、アルフレッドは必死で冷静を装っていた。

『その人が好きなの?』

『まさか! 絵で見ただけですもの。でも――』

『でも?』

『とても美しい方だったわ。アルフレッドのように』

 そしてその言葉が引き金となった。クリスティーヌにとってそれはアルフレッドへの賛辞のつもりだったのだが、アルフレッドの怒りを頂点に高めるには充分すぎたのだ。
 アルフレッドはとても整った容姿を持っていたが、黒髪に黒色の瞳に加え、陰気な魔術師のローブはそれを隠してしまう。クリスティーヌだけがその事実を知っていたが、彼女が選んだのはこともあろうに己と対極にある王子という存在だった。
 アルフレッドは唐突に、クリスティーヌの腕を強く引く。

『痛いっ……なにをするの、アルフレッド!』

『クリスティーヌ、君は誰にも渡さないよ』

 いつもとはまったく違う様子のアルフレッドにおびえ、かたかたと身体を震わせるクリスティーヌ。そんな彼女にかまうことなく、アルフレッドは口の中で呪文を唱え始めた。
 つかまれた腕の熱さに驚き、クリスティーヌが悲鳴を上げる。
 けれどアルフレッドは意に介さずに、その華奢な腕にこぶし大の紋章を刻んだ。

『こ、これはなに……?』

 戸惑うクリスティーヌの腕を放すと、アルフレッドはローブをひるがえしてさっさと背を向けてしまう。

『二十六歳の誕生日に迎えに行くよ』

 そう言って去っていったアルフレッドの言葉を、ぼう然としていたクリスティーヌは覚えていない。
 だから父王でさえ触れられなくなった自分の異変に対して、ただただ呪いをかけた当のアルフレッドを恨むことしかできなかった。
 父王はアルフレッドを国から追放したが、クリスティーヌは少しも救われなかった。
 なぜなら男性が少しでもクリスティーヌに触れた場合、相手にとんでもない激痛が走るものだから、自然と彼女に近寄る者がいなくなってしまったのである。
 呪われたクリスティーヌを男性だけでなく女性もまた気味悪がり、いつしか“触れられずの姫”と呼ばれるようになった。
 むろんのことエドワードとの婚約は、うわさを聞きつけたドリュモア王国のほうから丁重に断りの連絡を入れられることになり、このできごとはクリスティーヌをひどく落胆させた。
 父王は呪いを解く方法を捜し続けたが、アルフレッドの呪術を解けるほどの魔術師はこの国に存在しなかった。
 こうして活発だったクリスティーヌは鳴りを潜め、若く長い時間を城の奥の尖塔の中でまるで幽閉されているかのようにすごすことになる――。

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窓際係長は私を好きすぎて出世できない

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触れられずの姫と執愛の魔術師

触れられずの姫と執愛の魔術師

著  者
御子柴くれは
イラスト
風凪ひかり
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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