触れられずの姫と執愛の魔術師

[3-4]別離
第16回

[3-4]別離

2017/05/19 ~ 2017/05/26 まで公開
「クリスティーヌ、呪いは解けたんですよね?」

 詰問のような唐突な問いに、クリスティーヌは驚きつつも小さくうなずく。

「では、試してみませんか?」

「え――」

 なにを、という暇も与えられなかった。
 気づけばエドワードが距離を詰め、その息づかいが感じられるほど近くにいたのだ。

「あなたの姿絵を見てから、私はあなたの虜だったのです」

「んぅ……っ!?」

 エドワードはクリスティーヌに強引に口づけた。
 まったく知らない性急なキスの感覚に驚き、即座に逃げようとするクリスティーヌだったが、いつの間にか背中と腰に回された腕に強く抱きしめられ、思うように身じろぎもできない。
 なぜか迫り上がってくる嫌悪感から、クリスティーヌは必死にエドワードの胸もとを握りこぶしで叩き続けた。

「初めてのキスの味はお気に召しませんか? クリスティーヌ」

 エドワードが少しだけ離れ、味わうようにぺろりと自身の下唇をなめる。

「ふっ……はぁ、はぁ……っ」

 息継ぎすらままならなかったクリスティーヌは荒い呼吸を繰り返してから、キッと婚約者をにらみつけた。

「どうしてこんなことを……!」

 懸命に口もとをドレスの袖で拭うクリスティーヌを見て、エドワードが目を細める。

「クリスティーヌ、あなたはキスが初めてではないんですね?」

「な、にを――」

 動揺に揺れるクリスティーヌの瞳をエドワードは見逃さなかった。

「あの魔術師ですか……それはとても悲しいことです」

「私は、べつに……っ」

 アルフレッドに行為を強要されただけ――そう体裁をつくろおうとして、クリスティーヌは言葉に詰まった。
 本当にそれだけであれば、一ヵ月もの監禁生活で自分はもっと疲弊していたであろう。いくら衣食住に不自由しなかったとはいえ、断ろうと思えば断れる日もあったはずだ。最初こそ強引だったアルフレッドだったが、そのあとはクリスティーヌの意思を尊重してくれていた。

(私……本当にアルフレッドを愛してしまったのだわ)

 そうとしかこの気持ちには理由がつけられない。
 すてきな青年になったエドワードに少しも心が惹かれないのは、心にはすでにアルフレッドの存在があるからなのだ。

「エドワード……聞いてちょうだい」

 クリスティーヌは素直に告白しようと思った。エドワードだけでなく、父王や国民たちもがっかりさせるかもしれない。だけど自分の気持ちにもう嘘はつけなかった。

「私はアルフレッドのことが――」

「それ以上は聞きたくありません」

 意を決したクリスティーヌだったが、その告白はエドワードによってさえぎられた。

「クリスティーヌ、あなたを愛しているのは私だけです」

「エドワード……っ」

「あなたは彼しか知らないから、愛の奥深さがわからないのでしょう」

「エドワード!」

 クリスティーヌがどう呼びかけても、エドワードの耳には何も入っていかないらしい。

「それなら私を知ればいいんです」

 気をゆるめていたクリスティーヌの隙を突いたエドワードが彼女にのしかかる。

「きゃ――っ」

 力で押さえ込まれるかたちとなって、クリスティーヌはベッドの上にあお向けに転がされた。

「やめっ……やめて、エドワード!!」

「やめません」

 必死に抵抗しようとするクリスティーヌだったが、あっという間に両腕を頭の上で縛られ、ベッドの枠に縫い止められた。
 エドワードは無防備となったクリスティーヌの首筋に顔をうずめ、舌先でつうっとなめ上げる。

「ひっ……」

 ぞわりと毛を逆立てるクリスティーヌ。肌は嫌悪感にあわだち、恐怖に身体を強張らせる。
 重さが違う、声が違う、匂いが違う、手の感触が違う――いまならアルフレッドとの差がいくらでも出てくるだろう。
 身も心もアルフレッドのものだったことにいまさらながら気づいたことを、クリスティーヌは深く後悔していた。

[御子柴くれは 作品一覧]
窓際係長は私を好きすぎて出世できない

[eロマンスjpの連載情報はツイッターでcheck!]

全話スグ読める電子書籍はコチラ↓

触れられずの姫と執愛の魔術師

触れられずの姫と執愛の魔術師

著  者
御子柴くれは
イラスト
風凪ひかり
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

以下の書店名をクリックすると、電子書籍版の購入ページへ移動します。

配信書店の一覧はこちら