甘美な束縛懲戒

公国の大使 (1)
第2回

公国の大使 (1)

2017/05/01公開
「あの、お嬢さん」

 ぼう然と立ちつくす佳織の背後から、声をかける人物がいた。
 その声にハッとしたものの、お嬢さんという呼びかけが自分に対するものだと思わず、歩き出そうとしたところで、もう一度。

「お嬢さん」

 そこでやっと自分にかけられた声だと気づいて振り返ると、そこには金髪の外国人男性がいた。
 身長は180センチを少し超えるくらいか。彫りの深い整った顔立ち。コンサバディブなダークスーツに、抑えた色合いのタイ。スーツの襟には、見たことのない国旗をモチーフにしたピンバッジ。
 流暢な日本語でかけられた声の主が、貴公子然とした外国人青年だったことに驚いていると、彼がその端正な顔に穏やかなほほ笑みを浮かべた。

「よかった。あなたに逢えて」

「えっ……」

 深みのある碧眼(ブルーアイ)に見つめられて思わせぶりなことを言われ、ドキッとした。

「どうしましたか?」

「いえ、なんでも……」

 狼狽が表情に顕われていたのだろうか。心配そうに訊ねられて恥ずかしくなり、目を伏せてそう応えた。
 考えてみれば、彼は外国人なのだ。母国語を日本語に訳して口にした言葉が、たまたま思わせぶりな台詞になっただけなのだろう。

「じつは道に迷っているのです。この住所なのですが……」

 その予想どおり、彼は道を訊ねようとしていただけだった。
 勘違いした恥ずかしさに頬を赤らめつつ、差し出されたメモを見る。するとそこは、ここから少し離れた場所だった。
 とはいえ、佳織にも正確な位置がわかるわけではない。
 そこで鞄からスマートフォンを取り出し、地図アプリを立ち上げて、彼に見せる。

「わかりますか?」

「はい。ですが、目的地までの道順をすべて覚えられません。よろしければ、ご一緒していただけませんか?」

「えっ……」

 そう言われて、とまどう。

「ご迷惑ですか?」

「いえ……」

 迷惑などではない。佳織自身、することも行くあてもなくて、さまよっていただけだ。

「そうですか。よかった」

 そのことを知ってか知らずか、佳織の返答を聞いた彼は、嬉しそうに表情をほころばせた。



「ここですね……」

 スマートフォンの画面とにらめっこしながらたどり着いたのは、裏通りの洋館だった。
 元は資産家の邸宅だったのだろうか。格別敷地が広いわけではないが、石造りの塀に囲まれた館は、周囲の住宅とは趣を異にしている。その塀を回り込むと、金属製の豪奢な門。入り口の門に掲げられた真ちゅう製のプレートには、オークレール公国駐日大使館。
 彼の国の大使館なのだろうか。なにか手続きのために、自国の大使館を訪れたのだろうか。
 漠然と考えていると、彼が門を手で押して開けた。

「案内していただいたお礼をさせてください」

 そして佳織を招き入れようとする。

「で、でも……」

 外国の大使館の敷地は、日本の領土ではない。その国の国民ならともかく、日本人の佳織が勝手に立ち入るわけにはいかない。たしかほかの国の大使館でも、日本人が見学するためには事前に申し込み、許可を得なければならないはずだ。
 しかし佳織がそのことを告げると、彼はにこやかに笑って応えた。

「大丈夫ですよ。大使が許可すれば」

 彼は平然とそう言うが、肝心の大使の許可を得ていないのだ。

「ええ、ですから……」

 なおも固辞しようとする佳織に、彼は名刺を取り出してわたした。
 その名刺に印刷された文字は――。

「申し遅れました。オークレール公国駐日大使、クロード・ブランシェットです」

 驚いて顔を上げた佳織に、クロードが少し照れたように自己紹介した。

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ドS社長は緊縛師 熱い指に囚われて

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甘美な束縛懲戒

甘美な束縛懲戒ご主人さまはイケメン大使

著  者
田中まさみ
イラスト
不破希海
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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