甘美な束縛懲戒

公国の大使 (2)
第3回

公国の大使 (2)

2017/05/02公開
 オークレール公国は欧州(ヨーロッパ)の小国である。
 面積は日本の平均的な県ひとつほど。人口もひとつの県の平均と大差ない。
 かつては貴族たちが牛耳っていた金融業が現在でも国の主要産業で、そのせいでいまなお貴族制が残っている。
 訪れる観光客も少ないため、貿易関係者以外、日本ではその名を知る人も少ない。
 クロードの家は代々、オークレール貴族の執事を務めていた家系。彼の態度が落ち着いていて貴公子然としているのは、幼いころから貴族と接する機会が多かったからだろう。
 クロードの父は執事として、兄も父の補佐役として、いまも貴族の屋敷に勤めているが、次男の彼は大学院まで進み、外交官になった。
 しかし貴族制が残るオークレール公国では、貴族の執事の家柄とはいえ、市民階級の彼は欧州主要国の駐在員にはなれなかった。
 とはいえ、クロードは優秀な外交官。その才とオークレールに滞在していた日本人に直接教わった日本語の語学力を見込まれて、彼は開設されたばかりの駐日大使に任命されたのだ。

「大使といっても私以外の駐在員はいない、たったひとりの大使館なんですが」

 そう言って苦笑しながら、クロードは自分で淹れた紅茶をひとくち飲んだ。

「言葉はできてもまだまだ地理には不案内で、買い物に行くのもひと苦労。お茶と一緒にお出しする菓子や軽食もご用意できずに、お恥ずかしいかぎりです」

「それはたいへんですね……お仕事の性質上、身のまわりのお世話をするのも誰でもいいというわけにはいかないでしょうし」

 クロードの言葉に佳織が応えたところで、彼がカップを置いて彼女を見た。

「ええ、ですから、あなたに声をかけさせていただきました」

「それはどういう意味でしょう?」

「大使館付きの住み込みメイドになってもらえませんか?」

「わ、わたしに……!?」

 驚き、手にしていたカップを落としそうになった。

「ええ、あなたをひと目見て、メイドとして適格だと思いました。それにあなたはいま、求職中ではありませんか?」

「えっ? でも、なんで……?」

「簡単な推理です。あの時間、勤勉そうなあなたが私のために時間を割いて案内してくれる。それはいま、お仕事をしていないからではありませんか?」

「そ、そうです」

「お仕事をしていないあなたが飾り気のないシンプルなスーツを着ているのは、就職活動中だからではありませんか?」

「そのとおりですが……」

 田舎の実家の躾が厳しかったおかげで、家事全般こなす自信はある。料理は好きだし、趣味程度ならお菓子作りもできる。しかし大使館での仕事となると、話は別だ。
 就活中だと見抜いたクロードの洞察力に驚かされたが、私邸ならともかく、自分に大使館付きのメイドを務められるか自信がない。
 しかし佳織がそう告げると、クロードは穏やかにほほ笑んだまま首を横に振った。

「ひと目見て、あなたのことが好きになりました。私のメイドは、あなたしかいません」

 好き、という言葉を聞いて一瞬ドキッとするが、それはおそらく『LOVE』ではなく『LIKE』の意味だろう。あるいはメイドとして好ましいというニュアンスの『LIKABLE』なのかもしれない。
 だとすれば、鋭い洞察力を持つクロードがそう言うのだ。自分はメイドに向いているのかもしれない。それに大使館の仕事なら、口うるさい田舎の両親も納得するだろう。

「それに、あくまで契約はメイドとしてのもの。あなたが公務に関わることはありません」

 クロードの言葉にも背中を押され、佳織は彼にほほ笑み返して答えた。

「わかりました。メイドのお仕事、お引き受けします」

[田中まさみ 作品一覧]
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御曹司の淫惑調教 甘美な罠に堕とされて
年下男子はSでした 初めての調教エッチ
ドS社長は緊縛師 熱い指に囚われて

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甘美な束縛懲戒

甘美な束縛懲戒ご主人さまはイケメン大使

著  者
田中まさみ
イラスト
不破希海
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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