ロゼリア姫は逃げられない。[1]

[4-1]それではご褒美をいただきます。
第21回

[4-1]それではご褒美をいただきます。

ロゼリア姫は逃げられない。
2017/05/18 ~ 2017/05/25 まで公開
 十日後、ロゼリアはまた庭の小さな礼拝堂に足を運んでいた。
 公務には二日前から復帰している。
 ――せめて今月いっぱいは舞踏会か公務かどっちかにして! マジで身体壊しちゃうから! やばいから!
 と、国王が泣いてすがってきたので、公務を選ぶことにしたのだ。

「おお、こんなときでも公務を優先するとはまさに王女の鏡……!」

 と、感動しまくって、また激しく泣く国王。

「ああ、好いているひとに会いたいでしょうに、交流を深められる舞踏会ではなく公務を選ぶなんて、少しは乙女らしくしていいのに……!」

 と、娘への不憫さに、さめざめ泣く王妃。
 どっちもうざくてしかたがないが、とにかく、退屈な寝台暮らしからはおさらばできた。
 そうして公務後にひとりの時間を持ったロゼリアは、いつもの小部屋に入り、ウサギのぬいぐるみを取り出した。
 もうそうとうひどいことになっているウサギを、懲りずにぼかすかやりながら、いろいろな不満をぶちまける。

「どこへ行くんでも護衛の数をむやみやたらに増やすんじゃないわよ、あのクソ親父! 医者も治ったって言ってるんだから、わたくしの病気はもう完治したの! なのに風が吹けば倒れるくらいのあつかいをして! どこの深窓の令嬢だッ! そんなんで一国を治める王になれると思ってるのかーーッ!!」

 ぼかすかぼかすかぼかすかぼかすか。

「お母さまはお母さまで、それとなくお茶会の席に誘って、それとなく結婚候補者っぽい男を並べて出迎えてくれるなーーッ! そっと見守ってほしいって言った意味、わかってないでしょ!? なごやかに会話するフリしながら『で、気になっているのはこのうちのどなたなの?』って目でこっち見てくんなーーッ!! さっそく何人かが勘違いして、贈り物とか寄越すようになったじゃないの! エリックまでその気になってニヤニヤしてたし! 心の底から願い下げだあんなクソ野郎ぉおおおおッ!!」

 ぼかすかぼかすか……ビリビリビリ!
 とうとう、こんもりした胴からウサギの首がぼとりと落ちた。あっという間に広がった裂け目から、中の綿がもわんと飛び出す。
 胴部分をそのへんにぶん投げたロゼリアは、足下に落ちた首を、ハイヒールの先で思いきり蹴飛ばした。
 部屋をそれなりの速さで横ぎっていったウサギの首は、いつの間にか入り込んでいたライフィールの手に、ていねいにやわらかくキャッチされる。

「今日も絶好調ですね、ロゼリア姫」

「音もなく勝手に入ってくるなストーカー野郎ッ! さっさと出てけーーッ!!」

「ははは。これだけ元気に叫べて動けるなら、本当にお身体は回復したようですね」

 そのへんに置いてあった本やらなにやらを手あたりしだいに投げつけてくるロゼリアを見て、ライフィールがさわやかに笑う。
 それどころか、投げつけられるすべてのものを難なくつかまえ、机に並べていくという離れ業までやってのけた。
 人畜無害なインドア地味男のナリして、なんという反射神経。
 ――やっぱりこいつはいろいろ腹立つ! いっそのこと憎らしい!
 おかげでロゼリアのいらだちは高まる一方である。

「――片想いしている相手がいると、国王夫妻におっしゃったそうですね」

 手もとにあるものをあらかた投げつけ、ロゼリアがはぁはぁと息を乱しつつも落ち着いたタイミングを見計らって、ライフィールが切り出した。
 ロゼリアはフンと鼻を鳴らし腕組みする。

「おかげで毎日お茶会まみれよ。お母さまったら気が早すぎ。そして気を回しすぎ。うざいッ」

「まぁ、心中はお察しします。ただ、そんな状況であっても、どの相手にも平等にほほえみ、平等に返事をし、平等にきっぱり振っているあなたはさすがだと思いますよ」

「それが何日も続けば嫌になるわ……」

 らしくもなく弱気なことをつぶやいて、ロゼリアは長い髪をかき上げながら、長椅子に
身を投げ出すように座り込んだ。
 公務に復帰したのは二日前だが、王妃の『身内だけの気の置けないお茶会』とやらは五日前から始まっている。
 寝込んで三日で熱が下がったロゼリアが退屈していると聞きつけた王妃が、その無聊をなぐさめるためにと、招待状を寄越したのが始まりだった。
 お茶会というからには、きっと女性同士の内輪の集まりなのだろう。
 ――そう思って参加したが最後。ふたを開ければ、そこは逆ハーレムまがいの、次期女王をつけ狙う男どもの巣窟だった。
 みんな眼をぎらぎらさせながら、いまをときめくロゼリア姫の婿の座を射止めようと、鼻息を荒くして待っていたのである。
 ――影ながら見守ると約束したのはなんだったんだ、お母さま! このおせっかい焼き!
 と、手にした扇を握りつぶしそうになったが、そこは完璧・完全無欠のロゼリア姫。
 恥じらいながらもにこやかに参加し、断るところはきっぱり断り、必要な場合はばっさり振って、毎日の日課と成り果ててしまったお茶会をうまく乗りきっているのであった。
 おかげでストレスは順調に蓄積し、今日は公務があるからお茶会はなし! そのかわりひさびさに祈りの空気に身を置きます! と宣言して、ここにこもることにしたのである。
 心置きなく叫んだら、多少すっきりすると思ったのだが、なぜだか今日はイライラが止まらない。
 目の前の男がにこにこしているのが、なんだか無性に腹が立ってしかたがなかった。

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ロゼリア姫は逃げられない。[1]

ロゼリア姫は逃げられない。[1]

著  者
佐倉紫
イラスト
城之内寧々
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
92 円(税抜)
シリーズ
ロゼリア姫は逃げられない。
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