ケモノみたいに愛して!

[1ー2]アクシデントに見舞われて
第2回

[1ー2]アクシデントに見舞われて

2017/05/28公開
 品川から京浜急行に乗り15分ほどでわたしの住む駅に着く。巨大マンション群を通りすぎてすぐの小さなアパートに、もう6年も住んでいる。見た目からして古く内装もボロボロだが、住み心地は悪くない。それにここは猫が飼えるのだ。それもあり、離れられないでいる。
 2年前、渉とこの近くを散歩していたとき、公園で怪我をしている子猫を拾った。近くの動物病院に連れていき、飼い主がいるかもしれないと探したが見つからなかった。
 アパートはペット可ではなく、渉は会社の独身寮に住んでいたため、そのころまだ元気で近所に住んでいた、年老いた大家さんに話すと、猫は好きだからいいよと特別に許可してくれた。その大家さんはその後、体調を崩し老人ホームに入ってしまったらしく……。最近はお見かけしていない。
 子猫は背中の色が薄い茶色のメス猫で、お腹が白かった。フランスパンに似てると渉が言い、名前は『パン』になった。
 パンは昼寝が好きな、のんびりした性格の猫に育った。もちろん、いまも一緒に住んでいる。すっかり大人の猫になり、少々太り気味なのが悩みだ。

(ん?)

 アパート付近で、異変に気がついた。
 最寄り駅についたのは普段どおりの時間だった。さほど遅い時間ではないから人通りがあること自体は不思議ではない。だが、わたしのアパートは住宅街の中にあり、面している道も細いのに、周囲に、妙に人が多いのだ。
 それも、アパートに近づくほどに多くなってきた。その上、みんな同じ方向を見ている。わたしの進行方向、要するにアパートのほうを。

(何ごと? それに……なんか、へんな匂いがする。こげくさい?)

 アパートが見える位置まで来て息を飲んだ。
 すぐそばに消防車がある。そして、わたしの真上の部屋の窓ガラスが割れており、薄く煙が上がっていた。

(ええ? 火事?)

 すでに鎮火しているようだし、ボヤ程度のような気もするが、何しろ火もとは真上の部屋だ。アパートは鉄骨造りの3階建てで、わたしの部屋は2階だった。あわててアパートのそばへ駆け寄ると、1階の入り口でスーツを着た中年男性に引きとめられた。

「入居者の方ですか? 何号室ですか? お名前教えてください」

 不動産屋の担当者とわかり、状況を説明してもらった。やはり火元は真上の3階で、すぐに消し止められたのでケガ人はいない、という話だった。
 わたしの頭の中はパンのことでいっぱいだった。すぐに部屋に入りたいと言うと、確認のためにとその人が一緒に来ることになってしまった。

「水漏れの心配がありまして。天井の状態も見ないと」

 鍵を開け中に入ると、いつものようにパンがにゃあん、と鳴きながら出迎えてくれた。わたしはとりあえずホッとしてパンを抱き上げた。不動産屋さんは目をまるくした。まさか猫がいるとは思っていなかったらしい。

「……飼っていらっしゃるんですか」

「ええ。大家さんには許可をもらいました」

「こちらでは何も聞いておりませんが……」

 不動産屋は何か言いたげだったが、室内の確認のためにまずは中に入る。
 天井から水漏れしていた。それも、かなりの量だ。部屋の中はびしょびしょになっていた。しかたなく、靴のまま進んだ。

「あ……」

 中に入ると、惨状が目に入り込んできた。ベッドも、電気製品も、家具も、服も、本も……すべてのものが水浸しになっていた。しかも、その水はアパート内を通過したせいか、汚く、匂いもある。大事なものがすべてだいなしになってしまった。

「ひどい。困ります……こんなこと」

 ショックで目の前が真っ暗になった。
 不動産屋にうながされ、バッグに貴重品を詰め込んだ。なすすべもなく外に出て、話を聞くことになった。
 見てのとおりの状態なので、修繕が必要であり、すぐにもとどおりにし住むことはできないということ。濡れた家財道具などは保険から弁償されるので安心してほしいということ。非常時なのでそこまではまだ納得できたのだが、どうやら猫がいることで、問題があるらしい。
 仮住まい用に別のアパートを紹介してもらえるはずだったが、そこはペット可物件ではないし、いまのアパートももともとはペット可物件ではないので、契約違反のため仮住まい用の物件を貸せないという。
 わたしは必死で訴えた。

「でも、大家さんにはちゃんと断って、了解をもらっていたんです」

「そういうお話は、こちらでは聞いておりませんでしたし、それに……ご存じかもしれないですが、大家さんは体調を崩されて、ご自宅での生活が難しくなり、介護施設に入所なさってます。アパートに関しては現在シンガポールにお住まいの息子さんに一任されていらっしゃいまして、弊社で管理を代行しております。とりあえず今夜はホテルに入っていただくつもりだったのですが猫がいるとなると、仮住まいのお部屋の件だけでなくホテルのご紹介もできかねます」

 取りつく島もなかった。大家さんとは口約束だったので、証拠もない。確認することもかなわないとなれば、わたしが引くしかなかった。

(ちゃんと、書面に残すとかしておくべきだった……)

 そんなことを思ったがあとの祭りで、ただでさえショックを受けているところに追い打ちをかけられ、何も考えられなくなってしまった。

「じゃあ……いいです、とりあえず」

 そう言うと、不動産屋は親身になってくれる様子もなく、わたしに今回の件についての書類を手渡すとほかの入居者のところへ行ってしまった。

(どうしよう……)

 アパートの入り口近くのブロックに腰かけた。持ち出した貴重品類と猫のパンを入れたキャリーケースが重い。そっと下に置き、あてもなくスマホを取り出した。
 見ると弓香からラインが入っていたので、アパートでボヤが出たことを知らせると、少ししてなぜか渉から電話がかかってきた。

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ケモノみたいに愛して!

ケモノみたいに愛して!元カレの不器用な独占欲

著  者
乃村寧音
イラスト
中田恵
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
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