時の魔女と少年王[2]

あいかわらずおまえのキスは
第1回

あいかわらずおまえのキスは

時の魔女と少年王
2017/07/28公開
 空は突き抜けるように青く澄んでいて、朝の心地よい風がカーテンを揺らしている。大陸側と海洋側の気候が交差したベアグルントの気候は、気温は高いが湿度が少ないせいで、夏も比較的すごしやすい。
 ツェツィーリアは、この国の夏が気に入っていた。
 朝いちばんに浴びる陽の光も、さわやかな風も。
「ディートハルト陛下、起きてください」
 部屋の窓をすべて開放したツェツィーリアは、ベッドで眠るディートハルトに声をかける。
「陛下、起きてください。朝です」
 返事がないので、彼女はシフォンのカーテンをくぐる。その姿は酒場の女給のような服である。黒いミニ丈のつりスカートに、フリルのついた白いエプロン。そして、ガーターベルトで留めた白いストッキングに黒いエナメルのローファ。
 もちろんこの城の侍女の服ではない。
 二日間の休日が明けた朝は、彼の用意した服装で奉仕するように言われていた。
 もちろんディートハルトの趣味である。
 (なんだって着こなす自信はあるけれど、この趣味にはさすがに引いたわね)
 彼の服装による倒錯趣味には、少々ついていけないところがあった。
 (この前は修道女だったし、その前は田舎の村娘、その前はえーと、看護師? 今日のはまだわかりやすく露出が高いぶん、理解できるけど……)
 彼女は、銀色のやわらかな髪を枕に沈ませて、端正な横顔で眠る王の顔を見下ろした。腹立たしいほど、整った美しい顔立ちだ。精悍だが、細部は繊細なつくりで、まつ毛も長い。
 くやしいが、見惚れてしまう。
「陛下、たぬき寝入りはやめてください」
 いくら声をかけても目を開けないディートハルトにいらいらしながら、ベッドに上がる。
 (この変態陛下が……)
 キスでなければ起きないと言い張ったディートハルトは、意地でも目を開けないつもりらしい。
 ツェツィーリアは、ディートハルトの唇に風のようにすばやく唇を当て、離した。これでどうだ、とディートハルトの寝顔をのぞき込む。
「あいかわらずおまえのキスはヘタくそだな」
 薄く瞳を開けて、微笑むディートハルト。
 ツェツィーリアはいらっとしながらも、瞳を細めて妖艶に微笑んでみせる。
「ようやくお目覚めですか? さっさと起きてくださいませ。ディートハルト陛下」
 寝起きとは信じられない力とすばやさで、あっという間にディートハルトは彼女を組み敷いて「あんなキスでは目が覚めん」と、唇をふさがれる。
 しっとりと重ね、下唇を何度も軽くついばまれ、舌が割って入り込んでくる。
 これももう朝の定番である。
「やめっ……」
 ディートハルトはツェツィーリアの太ももをまさぐりながら、胸のふくらみをやわやわと揉みしだく。
「ん……んっ」
 ざらりと舌をなめられながら、ディートハルトの指がブラウスの下に入り込んできて、直接やわらかな肌を愛撫された。
「あいかわらずここは下着もつけず、無防備なんだな」
「ふっ……うぅ」
 直に乳首をつままれて、ツェツィーリアはまつげを震わせた。強引な愛撫がたまらなく気持ちよかった。
「下着などつけなくてもおまえの胸は完璧だ。やわらかく、肌もなめらかで、何より感じやすい」
 ディートハルトは、ボタンをひとつ、またひとつとはずしていたが、途中で焦れてブラウスの合わせを力まかせに左右に引っぱった。
「きゃああっ! ちょ、陛下!」
 ブチブチッとボタンが弾け飛んで、ふたつのやわらかなふくらみがぷるんっ、と弾んで表れる。
「まるで芸術品だ。この大きさ、このかたち……」
 裾野から頂上に向けて引き絞るように持ち上げられて、ツェツィーリアは頬を赤らめる。感じやすい胸の突起は、すでにぴんと勃ち上がっていた。
「ね、寝ぼけていらっしゃいます?」
「そうだな。寝ぼけているようだ」
「朝は、キスだけと……」
「ああ、キスだけだ」
 ディートハルトは、隆起した胸の突起にちゅっとキスをする。
「陛下……っ」
「キス、だろう?」
 そして悪戯っぽく、舌でちろちろなめてみせる。
「っあ、ああ」
「感じやすいな。ほら、もうこんなに尖って」
「や、やめて、ください……あぁっ」
 ぱくっと咥えられて、あわてて彼の肩を押しやろうとするが、逆にその手をとらえられ、顔の横にはりつけにされる。ディートハルトは、柔丘の形をたどるように、裾野から頂上までねっとりと舌を這わせた。
「んっ、や……ぁ」
 敏感な頂にはあえてふれずに、そのまわりをぐるりとなめられると、ぞわぞわするような官能のうずきにじっとしていられなくなる。身をよじると、五指にディートハルトの指が絡みついてきて、ますます切ない気持ちになった。
「ん、陛下……っ」
「吸ってほしいか?」
「や、ですったら! んっ……や、やだ、そんなふうになめたら……」
 ギリギリのところで、欲しい刺激が得られないもどかしさ。ディートハルトは彼女の快感のありかを知り尽くしていた。
「は、あ……」
 行き場のない高まりに瞳を潤ませ、ディートハルトの指を強く握り返して訴えると、彼は満足そうに微笑んで、彼女の望みをかなえた。
「ああぁっ!」
 シーツに、波打つ黒髪が広がる。
 ディートハルトは、いやらしく勃ちあがった先端を、舌と唇で思う存分かわいがりながら、彼女の脚のあいだにひざを割り入れ、秘部に強く押し当てた。
「ああっ! あん、や、ぁ」
 敏感な部分をひざ頭でグイグイ押されて、ツェツィーリアはたまらずひざを立てる。
 短いスカートはめくれ、太ももが陽の光に照らされてその白さを際立たせている。ディートハルトは顔を上げ、目を細めて彼女を見下ろした。
「この衣装もよく似合っている」
 引きちぎられたブラウスからのぞく、まろやかな乳房、スカートがめくれ、まる見えになった黒いレースの下着。整えられた髪もすっかり乱れている。
「ちゃんと着ているところを、見てもいないじゃないですか!」
「この服はこうして、乱されて初めて完成なのだ」
「よくわかりませんが、陛下が変態でいらっしゃるのは充分わかりましたわ」
「よく言う。興奮していたくせに」
「んっ! 興奮なんか……」
 くちゅり、と濡れた音に耳をふさぎたくなった。
「この音はなんだ?」
「いや! やっ……ぁ」
 下着の中に入り込んだ指に、ぬるぬると秘裂をなぞられて、反射的に彼の胸を押しやろうと腕を張る。
 二日間の休息日が明けた朝の彼は要注意だ。
 いたずらな指は花芯をとらえ、にちゃにちゃと蜜を塗り込めながらこねくり回した。
「ああっ……ん、んっ」
「朝からこんなに濡らして、いけない雌犬だな」
「陛下が、いやらしいこと……ん、するからっ」
「いやらしいことをされて悦ぶおまえは、いやらしくないのか?」
 さわやかな朝の空気に不釣り合いな、淫らな水音と、女の乱れた息遣いがベッドを満たしていく。
 彼の愛撫には魔法がかかっているのかとすら思うくらい、彼女の熱を簡単に高めてしまう。
 弄ばれるのは屈辱的で業腹だが、あまりの気持ちよさについ我を忘れて、さらには屈辱すらも快感にすり変えられてしまうのだ。
 (さすが淫乱体質に定評のあるわたしだわ。大嫌いなはずの男にさわられて感じる、ひとレベル上の変態に……)
 頼みの綱のアベールもまだ戻らないので、この身体の変化を相談することもできず、すでにうしろを犯されてしまっていては、投げやりにもなる。
 (アベールのばか、ばか! 囚われの陵辱生活なのに、けっこう楽しんじゃってるなんて!)
 それならそれで問題ないのでは、とも思うが、一応彼女にもプライドはある。気持ちいいことは大好きだが、彼の思うがままに乱されるのが気にくわない。支配されることさえ快感であろうとも。
「ああ、おまえはうしろのほうが好きだったな」
 と、ディートハルトにうしろの穴をくすぐられて、ツェツィーリアの我慢も限界になる。
「やめてやめて! ほんとに、いやっ」
 朝からアナルセックスは、さすがにやりすぎだ。ほぐすのに時間はかかるし、消耗も激しい。朝にそんなことをされたら、半日はつぶれてしまう。
 ジタバタともがき始めたツェツィーリアを見て、ディートハルトはつまらなそうにいたずらをやめた。
「もっと色っぽく抵抗すればいいものを」
「申し訳ありません! でも、約束違反ですわ」
「そうだな。寝ぼけていたようだ」
 しれっと答えてあくびをすると、ディートハルトはベッドを降り、豪快に夜着を脱ぎ捨てた。
 彼女に手伝えとも言わない。王が自分で着替えをするのは意外だったが、その理由を聞くと、「そのほうが早いからな」とシンプルな答えが返ってきた。
 ためらうことなくすべてを脱いで裸体をさらし、クローゼットを開けるディートハルトのうしろ姿をちらりと盗み見る。
 広い肩幅に鍛え上げられた広背筋。逆三角形の背中は見るからに硬そうだ。そして、硬さと弾力の見事な引き締まった臀部。
 彫刻のように均整のとれた肉体に、ツェツィーリアの頬が熱くなる。あの身体に組み敷かれた、まだ新しい記臆が、いやでも脳裏に浮かんでしまう。
 ディートハルトは、無造作に選んだ白いやわらかな生地のシャツに腕を通す。
 身幅は細いが、袖ぐりはゆったりとしたラフなものだ。袖口にかけてすぼまっていて、折り返した袖口をボタンで留めるかたちになっている。フォーマルならシャツの上に上着とマントを着けるのだが、今日はデスクワークや内々の会議なのだろう。
 ディートハルトはシャツのボタンを留め終えると、ツェツィーリアの前に袖口を差し出した。
「留めてくれるか?」
「……はい」
 おとなしく、彼の袖口のカフスボタンを留める。
「ツェツィーリア」
「なんでしょう」
「キスしていいか?」
「は?」
「背中におまえの熱い視線を感じていたせいだろうな。もう一度、服を脱ぎたくなってしまった」
「ば、馬鹿なことをおっしゃらないでください! 見てなんか……いえ、見てしまいましたけど、恐いもの見たさ、ですわ」
「私の身体で肝試しとは失礼なやつだ」
「もうわたくしの朝の仕事は終わりましたわ。あとは、ほかの侍女にしてもらってください」
「残念ながら私の侍女はおまえだけなのだ。みな、おまえのように美少年好きの変態だったため、成長した私には興味もないらしい」
「ああ……それはしかたがありませんわね」
 と、ツェツィーリアは同情のため息をついた。
 以前、このたくましい王に懸想している侍女たちのおしゃべりを立ち聞きしたことがあったが、彼女たちも一時の気の迷いだったのだろう。
 普通に考えて、あの美少年陛下を超える存在があるはずもないのだ。
 ディートハルトが反対の腕も差し出せば、細い指先がカフスボタンにふれる。
 黒く長いまつげが白い頬に影を作るのを、ディートハルトは見つめた。この魔女との生活に飽きる気配はちっともなかった。毎朝のキスでうろたえ、怒り、夜は嫌がりながらも快楽に溶けていく。
 復讐として始めたこの奇妙な契約は、その行為自体が意味を持ち始めていた。
 それを知らないのはこの魔女だけだ。
 冗談めかしているが、いまだって彼女にふれたくてしかたがないのを涼しい顔で我慢するのが、どれほど忍耐を強いられることか。
「さ、できました。お母上との朝食のお時間ですわ」
「おまえも来ないか?」
 ツェツィーリアは首を振る。
「わたくしはもう先にいただきました。それに、親子水入らずの場に割り込む気はありませんわ」
「母上がおまえに会いたがっていたぞ。同じ城に住んでいるのにちっとも会えないとな」
 ディートハルトに呪いをかけたのはツェツィーリア本人である。それなのに、彼女のことを“息子を救ってくれた優しい魔女”と信じて感謝を惜しまないエルフリーデに、うしろめたさを感じずにはいられない。
 また、いつボロが出て呪いをかけた犯人の正体がバレてしまうかもわからなかったので、ツェツィーリアは必要以上の交流を避けていた。
 自分の身を守ることは最優先事項である。
「よろしくお伝えください」
 ディートハルトは彼女の、つやのある黒髪をなでる。
「今度、気が向いたときにでも顔を出せばいい」
 いつもツェツィーリアを弄び、責めさいなむ指は、ときおり大切なものを扱うかのように酷く優しくふれてきて、彼女を戸惑わせる。
 (気まぐれにもほどがあるわ。虐めたり、ふいに優しくしたり。振り回されるはごめんよ……)
 押し黙ったツェツィーリアに、ディートハルトは苦笑する。
「母のことは嫌わないでやってくれ」
 その言葉にはすぐに首を振る。
「嫌いじゃありません。皇太后さまは、好きですわ」
「そうか? 私が以前言った脅しを真に受けて、恐れているのではないかと思ったが」
「それは、ちょっとは……でも、すばらしい母君ですから」
 だから嫌われたくないと思う。
 母親の記憶がぼんやりとしかないツェツィーリアには、エルフリーデが理想的な母親に見えた。優しく、愛情深く、凛とした美しい女性。きっと息子のためならどんなことだってするのだろう。彼が脅しで言ったような、ツェツィーリアに死よりつらい辱めを与えるようなことまではしないかもしれないが、酷く憎まれ、蔑まれるのは免れないだろう。
 (わたしのお母さんは……)
 自分の母もきっと愛情深く、美しかったに違いない。
 最後に母に抱かれたのがいつだったのかも覚えていないが、ときおり思い出すのは、ツェツィーリアの頭を優しくなでる、弱々しい腕の感触だった。

 『ツェツィーリア、愛してるわ』

 霧のかかったような記憶の中では、母の姿は目を凝らして見てもかすんで見えない。母といた家や部屋の様子は克明に覚えているのに、母の姿だけはぼんやりと白く、そこだけ視覚を奪われたように抜け落ちている。母という概念がそこにあるだけだ。

 『……のよ。あなたもきっと、わかるわ……かわいいツェツィーリア』

 かぼそいが、落ち着いた静かな声。
 あの夜、母はなんと言っていたのだろうか。
 何か大事なことを言われた気がするのに、肝心な部分が思い出せない。やわらかな夜風がカーテンを揺らして、にやりと笑う口元のような細い月が、空のはしからのぞき込んでいた。季節は夏の終わりで、ツェツィーリアはまだ幼く、母は小さな声で、静かに語りかけていた。
 途切れとぎれに、頭に響く母の声。
 母は病気、だったのかもしれない。
 彼女の声は小さく、耳を澄まさなければ聞こえないほどで、酷くかすれてもいた。

 『………………思い出すのよ』

 そこで弾かれるように記憶は途切れ、ツェツィーリアは夢から覚めたように瞬きをする。
 菫色の双眸が彼女を見つめていた。
「……どうした? ツェツィーリア」
「いえ、べつに。……ちょっと考えごと、を」
「私といるときに、ほかのことに気をとられるとは。胸をえぐられるようだな」
 ディートハルトは大げさに傷ついたふりをするが、何も言い返してこない彼女を見て、肩をすくめた。
「夜はいったん戻るが、すぐに隣国の大使との晩餐会に出なければならない。おそらく遅くなるだろうから先に休んでいていい」
「わかりました」
 ディートハルトはもう一度彼女の頭をなで、その髪に唇を押し当てる。
「今朝の続きは、明日までお預けだな」

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時の魔女と少年王[2]

時の魔女と少年王[2]

著  者
奥村マヨ
イラスト
純友良幸
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
648 円(税抜)
シリーズ
時の魔女と少年王
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

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