首席魔導師は癒しが欲しい[2]

私の足長ストーカーさん
第1回

私の足長ストーカーさん

首席魔導師
2017/12/27公開
 時の流れる速さは私の世界もリュカの世界も同じようで、金曜の夜に眠り、翌朝目覚めた今日は土曜。週末だし急いで帰る必要もないか、と私はまだリュカの世界に滞在している。
 ちなみにいま何をしているかというと、朝食を食べに出かけようと誘われたので、私たちは身支度をしている、というのが現状のはずなのだけれども。
「そこに手をかざすとシャワーからお湯が出るんでしょう?」
「ええ、そうです。ですが貴女は魔力をいっさい持たない身ですので、魔力感知式の製品はすべて貴女には使えないのですよ」
「だ、だからって何も、リュカが洗ってくれなくてもっ」
 あざやかなモザイクタイルが敷き詰められたバスルームで、私はリュカと乳繰り合っていた。正確には、自らの意思に反し、リュカと乳繰り合っているように見えるシチュエーションに我が身を投じていた。
「私がしたいからするのです。貴女のことならなんだってして差し上げたいのですよ」
 ここの世界はみんながみんな「魔力」というものを持っているらしく、日常生活のありとあらゆるものが「魔力」をきっかけとして動くようにできているみたい。
 魔力がいろんなものを動かす。私の世界で言うならば、「電気」が魔力にいちばん近いのかもしれない。
 だから、魔力を持たない私には、どれもこれも使えないということらしい。……だからと言って、リュカの恣にこの身を与えてなるものか。
「ほら、手を退けて」
 金色のシャワーヘッドから溢れる湯が、私の肩にやさしく当たる。体が温まる、けれど、この状況は看過できない。
「や、やだリュカっ、恥ずかしい」
「何をいまさら。これまでにも幾度となく私に体をさらしているのに」
 そう言って、胸を隠す私の手を、リュカがゆっくり剥がしていく。
 確かに、リュカがいなければお湯のひとつ浴びることすらままならない。かといって、睦みあってどろどろになった体のままでいるのも不快でたまらない。
 九割九分彼に屈しつつも、せめてもの反抗の気持ちを込めてきゅっと彼を睨みつける。
「……おや」
「な、なによ」
 リュカの眉毛がぴくりと上がった。無表情に近いから、どういう気持ちなのかはわからない。けれどすぐにリュカは微笑む。口の端を軽く動かし、どんどん私に近づいてくる。
「その目つきもそそりますね」
「な、リュ……」
 お風呂です。ここはお風呂です。
 季節は春、とはいえまだまだ寒いです。
 お風呂場はベッドルームじゃありません。
 頭の中で警告が弾幕のように流れる中、私はリュカとキスをしていた。
 唾液なのか、単なるシャワーのお湯なのか。全部混ざってわからない。けれど、いちいち考察する気持ちも、お湯と一緒に排水溝に吸い込まれて消えていく。
「はぁ、ん、……あ、リュカ……っ、ん、んっ」
 理性が機能していない。
 求められれば求められるほど、自然と彼を受け入れてしまう。
 シャワーヘッドを壁にかけ、空いた彼の手が太ももを這い上がる。
 内ももを割り、お尻のお肉を触るように奥深くまで手を差し入れられれば、彼の望みなのだからと、私は自分から両脚を開いた。たぶん、私の望みでもあったのだ。
「あぁん、あ、あっ、は、リュ……あぁっ」
 起きてからもベッドの上でリュカにイかされて、まだ敏感なままのソコ。指の先がちょんと触れただけだというのに、いともたやすく声が上がる。
「八千代……? どうして?」
「な、に、……がっ」
「こうしてシャワーで洗い流しているというのに、ヌルヌルしたものが次から次に溢れてきます。……どうして?」
 両脚が快感でぶるぶるとふるえて、自立できなくなっている。両手で彼をつかんでいないと、いまにも崩れ落ちてしまいそう。
 どうしてもこうしても……それより、どうしてキスをしている途中で、しゃべったりなんかするの? 唇と唇が離れちゃうじゃない。
「八千代、ねえ、どうして?」
「……さい」
「え? なんですって?」
 両手を彼の首に回して、思いきり引き寄せた。口を開いてかぷりと食べて、その唇に吸いついた。受け入れてくれるのを前提に、遠慮なく舌を突っ込んだ。
「うるさい。リュカ、うるさいっ」
 黙って。キスしたいの。キスしたいんだから。
「やち──」
 リュカの舌の、ざらざらしたところ。
 唾液。
 吐息。
 全部気持ちよくて、全部、甘い。


 私はこんなに煩悩にまみれた女だったのだろうか。よく知りもしない男に体をとことん許し、心まで奪われ、淫らに求めてしまうほどに。
 でも、それじゃ駄目なの? 本能に従順じゃ、駄目なの?

 ええ、駄目ですよね!

 わかっちゃいるのに、やめられない。そんな私も駄目な女!


◇ ◇ ◇

 朦朧とする意識の中、リュカに湯船に入れてもらった。
 少しぬるめのお湯に浸かって、やさしく髪を洗ってもらって……そうこうしていたら、徐々に理性が戻ってきた。
 片脚を上げて彼に抱きつき正面から。あるいは、壁に手を突きうしろから。
 正気の沙汰ではない。
 声が響くのがかえって興奮をあおったとか、どうせお風呂なんだからどれだけ汚れても問題ないとか、乱れた姿を見られることがたまらなくエロエロしくて燃えたとか……もう一度言う、正気の沙汰ではない。
 犯罪者のよくある発言で「カッとしてやった。いまは反省している」というものが有名だけれど、私のいまの心境は、まさにこれだった。恥ずかしくてしかたない。
 おまけにいまは朝なのに、何を盛っているのだろう?
 高窓から差し込む明かりをぼんやりと見つめながら、私はこれからの身の振り方を必死に考えていた。
「八千代」
「は、はいっ」
 背後から名を呼ばれ、私の肩がびくりと跳ねた。あわせてお湯がちゃぷんと揺れる。
「どうして貴女は髪を伸ばしているのです?」
「え、髪? えっと……とくにこれといって理由はないけど……惰性? 昔からロングヘアーだったから」
「私の世界では、髪は長ければ長いほど、魔力を蓄えることができるとされています。だから魔導師は男女問わず髪を伸ばしている者が多い。……私は魔力が多すぎて困っているくらいなので、このように短く切っていますが」
「そうなんだね」
「貴女の世界では髪にそのような役割はないのですか?」
 振り返り、浴槽の外の椅子に座るリュカに向き直って答える。
「うん。だって、魔法なんて存在しないから。単なるお洒落の一環。むしろ、男性で私みたいに長い人がいたら、日本だと白い目で見られちゃうかな」
 カルチャーショックというやつだろうか、リュカはわずかに瞠目してから、にこっと私に笑みを向ける。
「貴女が女性でよかった。とてもよく、お似合いですよ」
 そう言って、私の肩に手をかけ引き寄せ、額にちゅっとキスをした。
 あれだけヤラシイことをしたというのに、子どもに施すようなキス。少し驚いて彼の顔をまじまじと見てしまったけれど、リュカは満足げに微笑むだけ。薄い唇の両端を上げて、切れ長の目をゆっくり細めて。
 少しだけ赤い彼の頬に、湿った髪からしずくが落ちる。
 たらり。
 頬を伝い、顎から下へ。
 ……それ以上は見ていられない。だって、しずくが落ちて行き着く先は──
「八千代? また顔が赤くなってきましたよ?」
 べ、べつになんでもない! さっきまで私のナカを穿っていたものが視界に入りそうになったとかべつに関係なくて!
 などと、なんでもないわけがない弁解をする前に、リュカが言葉を補足する。
「いい加減上がりましょうか。これ以上湯船に浸かっていては、のぼせて体調を崩してしまう」
 思いのほか冷静なリュカを少しだけ恨めしく思いながら、私も浴室を出ることにした。
 脱衣所には私の服が用意してあった。正確に言えばそれが私の服だという確信はなく、ただ、広げたときのシルエットが女性用に見えるというのであって。スカートも置いてあるし。……おそらく、私のためにリュカが用意してくれたのだろうけれど。
 私がそれらを凝視しているので、リュカが助け船を出してくれる。
「おそらく、貴女が思っていらっしゃるとおり、それは貴女の服で間違いありませんよ」
「そ、そうなの?」
 頭にタオルを乗せたままのリュカが、背後から私に近づく。
 腕を伸ばし、私が持っているスカートに触れた。ふわりと揺れて、花の香りがかすかに漂う。
「これまでに、誰一人としてこの服を着用していません。貴女のためだけに、私が用意したのですから。……私が選んだ服を、貴女が身に纏う。これを私がどれだけ待ちわびたことか」
 リュカのかつての恋人が置き忘れた服なのかな、ということも一瞬頭をよぎったけれど、どうやらそれはないみたい。
 けれど、自分で選んだ服を私に着せたいって、リュカはストーカー気質に加えて俺様気質もあるのだろうか。いまは礼儀正しい敬語だけれど、そのうち「俺色に染めてやるよ」とか、歯の浮くような強引なセリフも言うようになるのだろうか。
「その前に、まずは体をこちらで拭いて」
 リュカの頭に乗せられているのと同じ、ふわふわの白いタオルを渡されて、そこでようやく自分が全裸だったことを思い出す。慌てて胴を隠しつつ、彼をふたたび見上げたときにはリュカは着替えをすませてしまっていた。
 さっきまで、私と同じ全裸だったはずなのに。たぶん魔法だ。魔法すごい。寝坊した朝の心強い味方になりそうだ。──というのは置いておいて、一歩下がって彼を見る。
 白いリネンのシャツに、やわらかそうなざっくり編みの黒カーディガン、ベージュの綿パンという服装。
「異世界」というとどうしてか中世のイメージが強いけれど、リュカの世界の服は私の世界と大差ない素材で作られているように見えた。加えて、もともとのリュカの容姿が整っているせいか、ほどよく息の抜けたコーディネートは、ファッション雑誌から飛び出したみたいに格好よく決まっている。
 見とれているあいだに私の手からタオルを奪われ、あっと言う間に体を拭かれ──。
「リュ、リュカ……あの、一人でも着れるよ?」
「いいえ、駄目です。私が着せて差し上げます。ほら、コルセットの形だって貴女の世界のものとは違うのですから、私の手が必要でしょう?」
 自分の服をあっという間に着たリュカだけれど、私の服は「あっという間に」は着せなかった。
 リュカの手には、タオルの代わりに桃色のレース。……レースのショーツ。
 リュカったら、澄ました顔で何を持っていらっしゃるんですか!
 うやうやしく布地を広げ、両サイドのリボンの結び目あたりを持って、ひざまづきながら満面の笑みで「さあ」と私に呼びかける。つまり、リュカは、履かせてあげるから、遠慮なくこの布に足を入れてと言っているのである……!
「待っ……あああの、リュカ、それっ! ぱ……下着、だよね?」
「ええ、そうです」
「わたっわわわ私一人で履けるからっ! ていうか何その頼りないデザインは?」
「私の好みです」
「この正直者っ!」
 ただでさえ布の面積が少ないのに、その面積もほぼほぼすべてがレースである。クロッチ部分は辛うじて「布」だけれど、細いし小さいしとにかくせまい。防御力のあまりの低さに私はたまらず眩暈を覚え、それと同時に避けて通れぬ道なのだろうなと結局やっぱり眩暈を覚えた。
「ほら、いつまでも裸でいては、風邪をひいてしまいますよ」
 私は覚悟を決め、ゆっくり片足を上げた。バランスを保つために彼の肩に指先を預け、つま先をゆっくりと、桃色の布と紐のあいだに入れる。もう片足もそこに入れると、紐を持つ彼の手がすうっと太ももを上っていった。
 腰骨のところで止まり、ショーツのライン沿いにヒップの形を整える。……けっこうお肉がはみ出るデザインみたいだけど、フリフリで、スケスケで、えっちだけど少女っぽくて可愛さもあって、履いてみれば意外と気に入ってしまった。こういうところが私の甘さだ。
「次はコルセットですね。さ、背中を向けて」
 不本意ながら言われたとおりに背中を向けると、うしろから腕が回って来て、これまた薄い桃色の布を当てられた。ショーツとおそろいの色で、カップの上部は金色のビーズで縁取られている。
「紐を締めます。苦しかったらおっしゃってくださいね」
 きゅ、きゅ、と腰のほうから締まっていく。でも、思っていたより苦しくはなかった。ゆっくりゆっくり締められていった。
「ねえ、リュカ」
「なんでしょう?」
「もっと手早くやっちゃってもいいんだけど……?」
「どうして? そんなのもったいないではありませんか」
 振り向くと、リュカ。
 両手が伸びてきて、頬に触れた。親指の腹がやさしく頬を愛撫する。
「貴女のすべてを堪能したいのです。愛しい貴女との貴重な時間を、ゆっくり、ていねいに味わいたい」
 細いストライプのタイブラウス、大きめのリボンがついたハイウエストのスカート、刺繍の入った一一〇デニールくらいのタイツ。最後に、リボンつきのショートブーツ。
 長い指がボタンをゆっくり留めていく。ころんとしたくるみボタンがボタンホールを通り抜けるたび、彼は私の頬にキスした。衣ずれの音がやけに響く。距離が近いからだけではない。きっと、私の意識が彼に集中しきっているからなのだろう。
 何を考えているのだろうかとリュカの顔を見上げてみれば、視線に気づいたリュカと目が合う。そうしてまた、キスをもらう。
 甘い空気にあてられて、私はもう、何も言葉を発せなかった。口を開けばおねだりしそうな気がしていた。

 リュカはリボンが好きらしい。ブラウスにも、スカートにも、ブーツにも大きなリボンがついている。ブラウスのタイを結ぶところを観察していると、やけに真剣な顔で結び、きゅっと引っぱり形を整え、満足げに小さく息を漏らしていた。
 髪はいつしか完全に乾いていて──おそらく魔法だ。もう、不可解なことはすべて「魔法」で片づけてやる──これまた彼が櫛ですき整えた。
 すべての用意を終えた私は、お人形さんみたいな格好になっていた。
 タイブラウス、ブラックウォッチのハイウエストスカート。その上に、ファーがついたケープ。以前ネットでちらっと見た、董卓(とうたく)を殺す服……もとい童貞(どうてい)を殺す服と通ずるものがある気がする。リュカみたいな非童貞にも効果があるんだな、と私はひとり賢さを上げた。
 顔は従前の日本人顔なので、絶対に衣装負けしているはずだけれど、べた褒めされればいい気にもなるわけで。
 もったいぶるように、慈しむように。
 ゆっくり、ていねいに、彼は私に服を着せた。
 ヘアスタイルを整えたあとには、なんと化粧まで。どこで覚えたのか知らないが、化粧水、乳液、化粧下地、白粉……。
 私がいつも使っている化粧道具は総じてプラスチック製容器に入っている。一方で、リュカが用意していたのは、どれもこれも凝った装飾の可愛い小瓶やら小箱やら。きっと、お値段にも雲泥の差があるのだろう。
 当然ながら、それらの道具を見てうっとりしきったチョロい私はおとなしく彼色に染められた。
 ちなみに、口紅を塗る前にはしっかりこってりキスされた。落ちてしまっては貴女が悲しむでしょうから。とか言われながら。

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首席魔導師は癒しが欲しい[2]

首席魔導師は癒しが欲しい[2]溺愛監禁大作戦

著  者
葛城阿高
イラスト
じゃこ兵衛
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
648 円(税抜)
シリーズ
首席魔導師
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