首席魔導師は癒しが欲しい[1]

淫夢から始まる死亡フラグ
第1回

淫夢から始まる死亡フラグ

首席魔導師
2017/12/27公開
 最近、おかしい。
「八千代……八千代」
 彼がやさしく私を呼ぶ。
「八千代……今日の貴女もとても可愛い。ほら、こんなにたくさん蜜をたらして」
 ぬるぬると数度なでてから、指がナカに入ってくる。ひんやりして心地よく、また、熱に浮かされ楔が欲しくてたまらなくなっている私には、その刺激が酷く切ない。まぶたを閉じそうで閉じなさそうで、とにかく力が入らない状態で恍惚のため息が漏れてしまう。
「気持ちいい?」 

 私はうなずく。
 そして願う。――もっと、もっとして、と。
 指は二本か三本か。私の様子をつぶさに観察しながら、彼は抽送を繰り返す。ときおり漏れる水音が、私の興奮と恥辱をどんどんあおってたまらない。
「ああ……なんて好い顔をしているのか、貴女は自分でわかっている? 可愛い。綺麗。愛している。……私の知っている言葉だけでは、貴女への想いを伝えきれない」
 これは夢である。きっと私は欲求不満なのだろう。
 一週間ほどだろうか、突如として連日連夜私の夢に現れるようになった彼に、私は夜毎、愛をささやかれ続けている。
 こげ茶色のさらさらの髪に、翡翠色の澄んだ瞳。均整の取れた美しい顔は、日本人より西洋人に近い。さりとて、石膏像ほど彫りが深いわけでもない。
 夢は記憶を整理するために脳が見せる幻だそうだ。けれど私は彼を知らない。
 彼は自分を「リュカ」と名乗った。……やっぱり、知らない。
 唇の端にはホクロがひとつ。それがまたとてつもなく色っぽくて、私は彼を知らないけれど、彼を見るたび体の奥に熱いものを宿してしまう。
 ――リュカ……もっと欲しい。早く欲しい。挿れて。キスして。めちゃくちゃにして。
 前の彼氏と別れて半年。まさか自分が淫夢を見るほど欲求不満だとは思わなかった。恋人でもない男の人を、ビッチのごとく求めるなんて。
 童貞をこじらせると死ぬというのは、案外ジョークではないのかもしれない。もちろん私は童貞でも処女でもないけれど、これは欲求不満の末期症状にしか思えない。
 私は、死ぬのか。
 などと悪ふざけの延長として世を儚んでみるも、謎の男に火を点けられて、とにかく鎮火してほしいと、私の体は気が狂いそうなほど深い触れ合いを求めている。
 彼の顔に手を伸ばす。
 頬にかかる髪をかきあげ、その耳たぶにそっと触れる。耳裏の首筋から後頭部の髪に指を差し入れ、ねだるように彼を見つめる。すぐに彼は根を上げて、甘い吐息を私にかける。
「八千代……貴女は、まったく」
 困ったような物言いだけれど、その表情はまったく困ってなどいない。むしろ嬉しそうにすら見える。嬉しくて嬉しくて、舞い上がりそうなのを必死で堪えているような。
 翡翠色の瞳が潤んで、本物の宝石のように煌めきを増す。とても印象的だったので、初めて彼と会ったとき、すぐにその目を好きになった。
 私をじっと見つめながら、リュカが唇を重ねてくれる。
 最初から深い触れ合いになることを私も彼も知っていて、やわらかな唇が触れたと同時に舌と舌が絡まりあった。唾液がたれて頬を伝う。なめ取る時間すら惜しい。
 こんなに情熱的で切羽詰まったキスなんて、これまで一度もしたことがなかった。おそらく、私はこんなキスがしたかったのだろう。さすがは夢、欲望に忠実だ。
 唾液がたれるのと同じように、アソコから愛液がたれていく。彼の指を濡らし、秘所周辺をベタベタにしても飽くことなく、さらに溢れてシーツに染みを作っていく。
 濃厚なキスを交わしながら、彼の背中を手がさまよった。
 この夢の中で私は裸。そう、いつも。
 この夢はいつも、裸同士で彼に組み敷かれた体勢から始まる。
 広い肩幅、出っぱった喉仏。自分以外のぬくもりと、ほどよい彼の体の重み。夢なのだから、彼が何者でも関係ない。
 ただ、肌の触れ合いによる艶福を、私は享受すればいい。
 夢だし。夢の中なんだし。誰にもこの痴態がばれることはないし、起きた私はビッチでもなんでもない。彼のことはよく知らないが、夢の中なのだから、欲望に身をまかせたってなんの問題もないはずだ。
 ――リュカ、好き。
 キスの合間に、睦言をつぶやく。夢は所詮夢でしかない。しかも、閨での言葉だ。信憑性の有無なんて私たちには関係ないのだ。
 言いながら、私は太ももを擦り合わせた。
 ギリギリの距離にあった私たちの下半身。そうやって動くと私の脚に彼のアレがぴとりと当たる。露骨なおねだりだ。
「っだから、本当に、貴女という女性は……!」
 わかる、私にはわかる。苛立ちを含んだような物言いは、私のおねだりが気に食わないのではない。私を早くめちゃくちゃにしたくてたまらなくなったからだ。ゆっくり私を食べたいのに、気持ちばかり焦ってしまうジレンマに、彼は苦悩しているのだ。
 なんて自意識過剰なの、とはもちろん思うのだけれども、起きれば消える泡沫の夢。誰に恥じる必要もない。
「どうなっても知りませんよ」
 ――早く。早くリュカが欲しいの。
 ふるえるため息を漏らしながら、リュカが私から指を抜いた。それからすぐにひざを開かれ、つん、と先端があてがわれる。
 あつい。
 でも、この熱が、たまらなく心地よい。
 これから与えられる愉楽を思うと、胸の高鳴りが止まらない。
「八千代」
 ぐ、と圧がかかる。少しずつ、リュカが沈んでいく。
 これまでに経験したことのないサイズのそれは、とても大きくて――具体的に言えば太くて、長くて、熱くて――すっかり私は虜になっていた。夢の中のブツだというのにこの骨抜きのありさまは、やっぱり欲求不満の末期だからなのだろう。
 ナカをゴリゴリ擦っていくし、長いから奥の奥までしっかり当たって痛いくらいだし――もちろんただ痛いだけではなく、「痛気持ちいい」というヤツで――熱いのも、私に興奮してくれているような気がして嬉しいし。
 ピストンの途中できゅっと膣圧をかけてみると、とくに大きなエラ部分が引っかかる。まさにロックがかかったみたいで、これもまた、愉しい。このブツは私のものだと、逃さないと主張しているみたいで――
 いや、私は何を考えているんだろう。確実に末期だ。どうしようもないほど末期だ。
「八千代、愛しています……早く貴女に出会いたいのに」
 ときおり、この夢の男は不思議な言葉を口にするが、夢の中だからだろう。そういうわけで、あえて突っ込んでも――突っ込まれているのは私のほうなのだけれど――意味がないだろう。当然私は無視をして、歓喜に身をまかせるのみ。
 情緒など道端に捨て置いて率直にいまの気持ちを述べるなら、男に媚びているような甘ったるい声を出すことに忙しいので、他の言葉を発する余裕などないという話なだけであって。とにかく、気持ちよくてしかたがないのだ。
 上から覆いかぶさられて、噛みつくみたいなキスをされて、胸を乱暴に揉みしだかれて。
 でも、ちっとも嫌だとは思わなかった。愛の証に感じられて、とても満たされた気持ちになった。
 やっぱり、この欲求不満ぶりは、末期だ。



 朝起きて、両脚をすり合わせる。ベッドに座って、上体をひねる。
 ……何の変化もない。パジャマはしっかり身につけているし、アソコが濡れた感触もない。ぱんつも快適、筋肉痛もない。
 ――やっぱり夢だった。
 そうして今日も、いつもの結論に至るわけで。
 もしかしたら、私は近々死ぬかもしれない。欲求不満をこじらせて。あっけない人生だった。お母さんに「いままでありがとう、そして先立つ不孝をお許しください」と電話せねばならないのか。
 そうして私は決意するのだ。
 よし、合コンに行こう! と。


◇ ◇ ◇
「雛子さーん」
 お昼休憩になるや否や、私は総務課の雛子に会いに行った。囃子雛子は私の同期。といっても入社前研修と、入社後の社内インターンでちらっと関わりがあった程度。
 大学も趣味もまったく異なり、髪が長いことと胸がでかいことくらいしか噛み合う部分はないところ、じつはその噛み合わないっぷりが心地よくて、いつしか一緒にランチに行ったり買い物に出かけたり、アルコールなら宅飲みする仲になっていた。
「ひさしぶりじゃん、八千代がお昼を誘ってくるなんて」
 雛子のお弁当はとても小さい。シャーベットカラーのマカロンみたいな二段のお弁当箱には、下におにぎり、上におかずが入っている。パプリカとエリンギのグリルに、アスパラのベーコン巻き、ハート型の卵焼き。おにぎりだってまぶしてあるふりかけの色がひとつひとつ違っていて、さすが雛子、抜かりがないなと感心する。これならいつ意中の男に昼食を誘われても、恥じることなくドヤ! と出せる。
 しかし私は知っている、これは雛子のお母様が作っているということを。
 ちなみに、私の昼食も手作りのお弁当だけれど、「食べられたらそれでいい」くらいにしか思っていないので、昨夜の残りものがほとんどだ。今日は野菜炒めと、プチトマトと、ちりめんじゃこ乗せ白ご飯。雛子のお弁当と並べられると若干の見劣りを感じなくもなかったけれど、ドヤりたい相手もいないことだし張り合う必要性もない。
 もしかしたらそういう「おひとりさま思考」が異性との斥力を発生させ、私を欲求不満のち死亡という、非業の死へと導く原因になっているのかもしれない。しかし明日から本気を出すので、本日のところはなんとか許していただけまいか。
 レストルームでお弁当を広げながら、私は本題を切り出した。
「じつはね、──」
「男が欲しいか」
 正確には、本題を切り出そうとした。切り出すまでもなかった。
 さすが雛子さん、こういうことの察しのよさは抜群だ。でも、その「力が欲しいか」みたいな魔王っぽいしゃべり方はいかがなものか。せっかく男ウケのよさそうな容姿をしている──彼女の努力の賜物だろう──のだから、もっと常にキャピキャピやっていたらいいと思うのだけれど。
 でも、以前「猫をかぶるのもまじダリィ」と不満を言っていたくらいだから、私といるときくらいは自由でもいいのかもしれない。雛子に限って周囲に異性がいるときに裏の顔を出すこともないのだし。
 私が肯定も否定もしないうちから、彼女はどんどんしゃべり出す。
「前の男と別れてから、そろそろ半年だもんね。次から次へと男を乗り換える尻軽女と思われず、かつ『枯れ果てている』とも思われない、あ~ちょっと寂しくなってきたんだろうな~って感じの、男の庇護欲をあおる絶妙のブランクだわ」
「なにそれ怖い、そんな言い伝えがあったの? いま初めて聞いたよ? 私の村には伝わってないよ?」
 雛子はどこまで計算をしているのか。私は末恐ろしくなった。
「でも男が欲しいんでしょ?」
「ええ、まぁ……」
 じつは最近、男なら夢精必至の淫夢を毎夜毎夜見ておりまして。欲求不満でして。
 そんな恥ずかしい暴露をせずとも話が進むので、助かることは助かっている。
「で? 合コンをセッティングして欲しいというわけだ?」
「おっしゃるとおりでございます。何卒よろしくお願いします」
「どんなオスがいい?」
 オス宣言。雛子の見た目はお淑やかなスイーツ系女子なのに、その中身は完全なる肉食獣だ。
 以前経験人数を聞いたとき、カンストして数年が経(た)つと言っていたから、彼女にとってセックスはウォーキング程度の気軽なスポーツなのだろう。
 しかしながら私も夢の中ではただひたすら享楽に耽らせていただいている身であるので、もしかしたら似た者同士なのかもしれない。
 ちりめんじゃこの塩味をけっこう濃いなと感じながら、私はうーんとうつむきうなる。
「どんな……と言われましても……雛子におまかせしてもいい? あんまり合コンとか参加したことないし、話が合えばどんな人でも。あ、でも、強いて言うなら八方美人な劉備よりは孤立してもめげずに頑張る曹操がいいし、力まかせの呂布よりはクレバーな曹操のほうがいい」
「あーごめん、古代中国の武将に知り合いはいないから現代人で許してね。じゃあ人数集まったら連絡するから」
「どっちにしろ曹操がいいのかよ!」とか突っ込んでほしかったのはもうどうでもいい。だいたいいつも、雛子は私の華麗なるボケを華麗にスルーしてくれるのだ。
「ありがとう。急なお願いだったし、人数が足りなかったときとか、いつでもいいからね」
「いつでもいい」と言いながらも、できれば早急に直ちに可及的速やかにお願いしますホント頼みましたからね! の気持ちをスマイルに込めておいた。

 でもまさか、私が依頼した当日のうちに合コンに呼ばれるとは思わなかった。
 雛子からのメールによると、今夜開催する予定の合コンに男性側の追加の参加があったから、女性側も私を入れられるようになったという。雛子の幹事力と金曜の魔力に、私は心から感謝した。
『営業一課のエリートが参加決定! お楽しみに』
 トイレで追加のメールを読みながら、今日の通勤服を思い出す。……しまった、もう少し露出の多い服を着てきたほうがよかったかもしれない。

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首席魔導師は癒しが欲しい[1]

首席魔導師は癒しが欲しい[1]結婚か監禁か

著  者
葛城阿高
イラスト
じゃこ兵衛
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
92 円(税抜)
シリーズ
首席魔導師
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