時の魔女と少年王[3]

時の魔女と少年王[3]
第1回

時の魔女と少年王[3]

時の魔女と少年王
2017/12/27公開

おまえに似た女の子がいい

 目覚めると外はうっすらと明るかった。
 カーテンの隙間から差し込む光が、朝を告げている。身体に回されたディートハルトの腕の重みが心地よくてふたたびまどろみ始めると、うしろから首筋にくちづけられた。
「ツェツィーリア、朝だぞ、起きろ」
 耳元でささやかれる低い声にぞくりとする。
 なんてことのない言葉でも、この身体は彼のすべてに反応してしまうらしい。
 ツェツィーリアが首を巡らせると、あたりまえのようにくちづけられ、ちゅっ、と音を立てて何度もついばまれる。
 心も身体も結ばれた充足感に、彼女は甘いため息をついた。
 好きだとお互い口にした瞬間から、すべてが変わった。
 ディートハルトにこれほどまで情熱的な一面があったことにも驚いたが、いままでお仕置きと称して執拗に攻められたのはその気持ちの裏返しだったのかと思うと、少し複雑な気分になる。
 していることは同じでも、いまではすべての意味が違った。

 ふたりは、魔女と人間。背負うものも、生きる場所も、人生に与えられた時間さえも違う、異なる種族の者同士。
 魔女のほとんどは、人間と火遊びはしても伴侶に選ぶことはなかった。愛した相手が、みるみるうちに老い、自分を置いて去ってしまうことをよく知っているからだ。
 人間は駆け足で人生を終える。そして、魔族に属する魔女は、長い時間をかけてゆっくりと人生を歩んでいく。その違いは、あまりに大きな障害だつた。
 けれども、誰しもが計算して恋をするわけではない。
 魔女の中にも、人間と恋をして、相手の死を涙ながらに見送ったという話も聞かないわけではなかった。ただし、時の魔女ツェツィーリアと違うのは、普通の魔女はまた次の恋ができるという点だ。
 自然の摂理と呼ばれる、神にも等しいこの世界の掟は、時の魔女を淘汰すべき存在として、さまざまな制限を課している。
 時の魔女ツェツィーリアに、二度目の恋はない。
 最初に選んだ男以外は、時の魔女にとって永遠に忌避の対象となり、心も身体も受け入れることができなくなる。最初で最後の恋でしか、繁殖の機会を得られないのだ。
(次の恋なんて、なくていい)
 ツェツィーリアは、ディートハルトと結ばれたことを後悔していなかった。彼が人間だろうとかまわない。心が、身体が、狂おしいほど彼を求めていた。
 こんなに愛されたことはなかったし、愛したことはない。
 ふれられるだけで悦びにふるえる身体、羽が生えたように舞い上がる心。
 初めての恋は、ツェツィーリアを幸福で満たしていた。
(いまは、この人のことだけを考えていたい)

 ツェツィーリアは甘く締めつけられる心にまかせて、彼のくちづけに応えた。唇を薄く開けるとすぐに舌が入り込んできて絡みつく。舌と舌がこすれ合う感触にぞくりとしながら、そっと瞳を閉じる。
 昨日はディートハルトの帰りが遅くて先に寝ていたためか、朝のキスにしては濃厚すぎた。
「ん、だめ、ディートハルト」
 彼の指が、布越しに胸のやわらかな肉を悪戯し始めると、ツェツィーリアは彼をたしなめるようにほっそりした指でつかむ。
 ほとんど毎晩のように交わっているので、一日あいただけで我慢の限界らしい。
「起きろといったのは、こうして愛し合うためだ。まだその時間はあるぞ」
 うしろから抱きしめられてするりと夜着を剥ぎ取られる。首筋をなめられながら敏感な胸の先をいじられると、彼女の指からは力が抜け、口からは甘い声が漏れ始める。
 もちろん、本気で抵抗する気などない。
「陛下っ……ぁ、ぁん」
「いま、陛下と聞こえたか? ふたりきりのときは、違うだろう……?」
 ディートハルトは、彼女の白い砂丘のようになめらかな曲線を指で愛撫した。たくましい腕の中にとらえ、貪るように彼女の肉体をほぐしていく。
 胸の先端をきゅう、とつまみながら秘裂の間(あわい)を指でなぞると、そのぬるりとした感触に彼は笑みを浮かべ、敏感な突起を甘くこねる。
「ふぁっ、ぁ、あぁっ……ディー、トハルト……!」
「そう、それが正解だ」
 ご褒美だ、とささやいてぬぷりと指を挿れる。
 甘く鳴きながら腰をくねらせるツェツィーリアに、ディートハルトは笑みを深めながら、わざとあきれたような声で言った。
「毎日あれだけしてやっているのに、まだ足りないのか。こんなにはしたなく濡らして、欲ばりな魔女だな」
「そ、それは、ディートハルトでしょう!? ……やっ、ぁん」
「ほら、もっと欲しくなってきたのか?」
 クチュクチュと、ことさら大きな音を立てて彼女をあおる。
 ディートハルトはあいかわらず、ベッドの中では少し意地悪だ。
「あぅ……ぅ、はぁ……」
 ディートハルトは指を引き抜くと、彼女の太ももに腕に通して持ち上げた。剥き出しにされた秘部が外気にふれてヒヤッとしたかと思うと、すぐに硬い熱を押し当てられる。
「んぁっ、や、ちょっ、ディートハルト! 待っ」
 ぐちゃっ、と、音を立てて一気に硬い肉を飲み込まされ、ツェツィーリアはその衝撃に悲鳴をあげた。
 彼は待つこともなく、ゆるゆると腰を動かし、中になじませていく。濡れて蕩けた淫壁は、彼の熱杭に穿たれるたびにやわらかく絡みついて締めつけ、彼を悦ばせた。
 横向きに並んだまま挿入されるのは初めてで、新しい角度でこすられる感覚に、ツェツィーリアの身体はどんどん熱くなっていく。
「これで、目が覚めたか?」
「覚めてますってば! ああぁっ、陛下」
「陛下、じゃないと言ったろう、いまのでまたお仕置きだな」
 ディートハルトは小刻みに奥を突いた。
「ふぁっ、ぁ、あぁっ……」
「朝からいやらしい声を出す金糸雀(カナリア)だ。もっと鳴くといい」
「もうっ! ディートハルト……や、ぁ、ああんっ」
 ずちゅっぬちゅっと粘質な水音が激しく響き、ツェツィーリアはすぐに快楽の奔流に飲まれてしまう。
 愛液でぬらぬらとてかる肉棒が、大きく引き出されてはまた奥を目がけて穿たれる。
 うしろにある彼の顔は見えなかった。ただ、片脚を抱えるたくましい腕と、密着する硬い胸板を背中に感じながら、ツェツィーリアは喜悦の極みに達した。
 彼女が果てたあとも、ディートハルトの動きは止まらず、さらに激しくなっていく。
「ひぁぁっ! あっあぁぁっ! ……や、んっもぅ、だ、めぇ」
「まだだ、ほら、頑張れ」
 彼はツェツィーリアを一度イかせ、絶頂にヒクつく中を楽しむのが好みらしい。
(なにを頑張れと?)
 それは、次の言葉でわかる。
「もう一度、イけるだろう? ん?」
「ああっむりっ! 無理いぃ! はあぁぁっ」
 中で達することを覚えてからは、何度も何度もこのように追い詰められている。最後には、気持ちいいのかなんなのかわからなくなるまでかき乱されて。
 少し、ではない。
 ディートハルトはとても意地悪なのだ。
 数週間前まで処女だったツェツィーリアは、この強すぎる快楽に恐怖すら覚えた。しかし、一度達してますます敏感になった淫らな身体は何度でも快楽にのまれ、翻弄されていく。
 この短期間ですっかり彼好みに調教されてしまったのか、身体の相性がよすぎるのか、はたまたその両方か。
 すぐにまた登りつめて、絶頂へと放り投げられる。
「あんぅぅっ…………!!」
 こうなってしまうと、もう駄目だった。意思とは無関係に、快楽だけを的確に拾い集めては、自らも求めて始めてしまう。
(ダメ、何も考えられなくなっちゃう……セックスがこんなに気持ちいいなんて、聞いてなかったわよ……。うしろもうしろでいいけど、こっちは、もっと、彼を近くに感じる、ような……)
 ディートハルトはツェツィーリアに挿入したまま、彼女を抱いてあお向けになった。その動きの最中にも彼女は軽く達し、たくましいディートハルトの身体の上にあお向けに乗せられた状態で、下からヌプヌプと抽挿される。
「うあぁっ……んんっ……ぁぁっ」
 硬い彼の身体をベッドにして、ツェツィーリアは悶えた。もちろんつながっている部分も気持ちがいいが、自分の身体の下にある、密着した彼の身体を感じるのも心地よかった。
 両脇から豊かな双乳を荒々しく揉みしだかれ、先端をつままれれば、ツェツィーリアは身体をのけぞらせて自ら秘部を深く穿たれる姿勢になる。
「気持ちいいか? ツェツィーリア」
「うぅ、ぁ、あぁっ、きもち、いいです……ディートハルト」
「どの体位がいちばんいいのか試しているのだが、おまえには死角がないな」
「し、死角とは」
「どんな体位でもイけるのは才能というしかない。……最近まで処女だったのが信じられない」
「えぇっ……」
 これが普通のことだと思っていたツェツィーリアが困惑した声を上げる。
 どんな体位であろうと、彼女は達していた。
 ディートハルトに、それはいいことなのだと笑って褒められたが、褒められるということはやはり普通ではないのか、と、ツェツィーリアはますます困惑するばかりだ。
 ディートハルトに身体をつなげられると、魂までがつながった気がして、その一体感にどうしようもなく幸せな気持ちになって昂ぶってしまうのだ。
 それをたどたどしく伝えると、思いきり抱きしめられながら、下からいやというほど突き上げられた。
「おまえが、そんなことを……言うから」
「ひうぅっ! あぁっ、ひぁあんっ」
「抑えがきかなく、なる……ッ」
「あひっ、やめっ……ああああっ、また、イッちゃう! あぁ、いやっ! またイッちゃう!!」
「大丈夫だ、今度は、一緒だ」
 何が大丈夫なのかまったくわからなかったが、ツェツィーリアはいままでとは違う強い絶頂感に恐怖を感じて暴れ始めた。
 ディートハルトは活きのいい魚のように跳ねるツェツィーリアをつかまえながら、最後の律動をくり返す。
「あああっ! あああぁぁっっ……!!」
 頭が真っ白になるような恍惚感の中で、身体の奥にディートハルトの欲望をビュクビュクと注ぎ込まれた。
 ツェツィーリアはひときわ強い絶頂に身体を震わせ、それは彼がすべてを出しきってからも続いた。ひたすら甘く長い絶頂に、しばらく指一本も動かせずに、ただ、呼吸をくり返す。
「は……ぁ、ぁ、はぁ……っ」
 達したばかりの身体を、ディートハルトの手のひらが優しく上下に愛撫する。
「ツェツィーリア、愛している……おまえは?」
 耳元でささやかれる言葉がくすぐったい。
 この言葉を口にするのは、まだ恥ずかしさが伴った。
「わたくしも……ディートハルト」
 ディートハルトはツェツィーリアを下からぎゅっと抱きしめた。まるで彼に拘束されるような感覚に、彼女はうっとりとした。それは甘美な檻のようだった。

「……魔女は人間の子を孕むことができるのか?」
 陶然としていた彼女の耳に、新鮮な単語が響いて瞳を開ける。「え?」と聞き返すと、ディートハルトは彼女をつかまえたまま上半身を起こした。
 さすが腹筋の鍛え方が半端ではないな、と、感心する間もなく、ツェツィーリアは彼のひざの上に乗せられるかたちになる。
「おまえは、私の子を産めるのか?」
 今度は耳元ではっきりとそう言われ、ツェツィーリアの胸がドキンと高鳴った。こんなふうにはっきりと聞かれるのは初めてのことだ。
「……産めます……同種族よりはできにくいのですが、可能……です。でも、時の魔女は女子しか、産めません」
「そうか」
 ディートハルトの微笑む気配がして、ツェツィーリアは顔を上げた。
「では、期待してもいいのだな」
 ディートハルトはツェツィーリアをかき抱いた。
「ディートハルト……ッ」
「おまえに似た女の子がいい」
「あ、ちょっと、待っ……っ!」
 抱きしめられながらゆるゆると腰を動かされるうちに、膣内でどんどん存在感が増してくる。
「まだ、なさるおつもりですかっ?」
 やはり鍛え方が半端ではないな、と、しみじみ感心する余裕もなく、うしろから両ひざをすくい上げられる。今日はそういう気分なのか、うしろからされてばかりだ。
「おまえが孕むまで、何度も注いでやろう」
「あぁっ! あぁ……そんな、もうっ……」
 たくましい腕に脚を抱えられながら、ふたたび硬くなった陰茎で貫かれる。先ほど放たれた白濁と愛液を中でかき混ぜられる淫靡な感触にツェツィーリアは気が遠くなった。



 もうそろそろ起きて、支度をしなければいけない時間だ。
 わかってはいるが、朝からの激しいセックスに身体は休息を求めていた。
 体力のあるディートハルトとてそれは同じだろう。
 彼はツェツィーリアの髪を弄んだり、頬や唇を指でたどったり、顔のあちこちにキスを降らせたりして、なかなか離れようとはしない。彼の場合、疲れたという理由でなく、ただ彼女を離したくないだけのようだったが。

 彼にめちゃくちゃにされるのは嫌いではない。
 そしてそのあと、こんなふうに甘やかされるのも。

 今日はもうこのまま一日中ベッドで過ごしたい、そんなふうに思っていると、突然、窓に何かがぶつかる重い音がして、ハッとふたりは顔を上げた。
「なんの音だ?」
「何か窓にぶつかったような?」
 ディートハルトは、ツェツィーリアにそこにいるように言うと、ガウンを羽織って音のした窓のほうへ歩いていく。
 天蓋から落ちるカーテン越しに、困惑して立ちすくんでいる彼の背中が見えた。
「ディートハルト? いったい何が?」
「いや……。かわいそうに。これは……フクロウ、か」
 ツェツィーリアはその言葉に反応してすばやくガウンを羽織ると、彼のいる窓辺へと駆けつけた。
 バルコニーには、ぼろ雑巾のようになった茶色のフクロウが横たわっていた。
「アベール!!」
 部屋に入ろうとして窓にぶつかり力尽きたのか、彼はぐったりとして動かない。ツェツィーリアはあわてて窓を開け、アベールを抱き上げた。
「やだやだ、アベール、死んでるの? 駄目よ! どうしたっていうの?」
 感情にまかせてアベールを振り回すと、うわ言のように「やめろ……」とうめいたので死んではいないらしい。
 ツェツィーリアはほっとして、意識のない彼を胸に抱きしめた。
「人語を話すフクロウ……おまえの知り合いか?」
 魔族の類に免疫のないディートハルトは、顎に手を添え興味深そうにアベールをのぞき込む。
「この子はわたくしの使い魔のアベールです。陛下、彼の怪我の治療をしたいので部屋に戻っても?」
「ああ、もちろんだ」
 ディートハルトはうなずくが、続き部屋へと向かうツェツィーリアの肩をつかんで引き止めた。
「今日は、昼ごろに戻れたらいったん戻る。夜は母との食事を忘れるな。それと」
 ディートハルトは、大股でツェツィーリアの前に回り込むと、彼女にくちづけた。
「さっき陛下と呼んだのは、ひとつ減点だ。あとで罰を受けてもらうぞ?」
「呼んでいませんわ、ディートハルト」
「いや、呼んだ」
「聞き間違いでは?」
「罪を認めないとは。倍のお仕置きが必要だな」
「なんて横暴な……。もういいです、お好きなようになさるといいですわ」
 ぷいっと横を向くツェツィーリアの頬を、ディートハルトは笑いながらなでる。
「怒るな。おまえがあまりかわいいからつい虐めたくなった。……私は支度をしてもう行くから、その使い魔とやらを見ていてやれ」
「はい。では」
 ツェツィーリアから身を離そうとしたディートハルトは、ふたたび彼女をその胸に抱きしめ、つややかな黒髪に鼻を埋めた。
「離れがたい」
「ディートハルト、いけませんわ。アベールが……」
「愛してる、ツェツィーリア」
「わたくしも」
 情熱的な抱擁とキスを交わすふたりの身体にはさまれたアベールが、「死ぬ……」とうめいた。

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時の魔女と少年王[3]

時の魔女と少年王[3]

著  者
奥村マヨ
イラスト
純友良幸
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
648 円(税抜)
シリーズ
時の魔女と少年王
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