時の魔女と少年王[4]

時の魔女と少年王[4]
第1回

時の魔女と少年王[4]

時の魔女と少年王
2018/03/30公開

[31]呪いがあふれ出しそうよ!

 王女の突然の訪問に、城の中はあわただしかった。
 ツェツィーリアとエリクは、ばたばたと行き交う使用人たちのあいだをすり抜け、庭に出た。
 夏も終わりに近く、陽が落ちるのもだんだんと早くなっている。空は太陽が沈むのを見送るように、一面を黄金色に染め上げていた。
 正面にある庭園の小径には、林立したロゼと白色の薔薇がまるで恋人たちを迎えるようにふきこぼれ、夕焼けが花弁の輪郭を淡く彩っている。
「ほら、いた! あそこにいるよ」
「見りゃわかるわよ! 黙ってよ! 気づかれるでしょう!」
「ツェツィーリアこそ声を落としなって」
 そんなロマンチックな庭園の中、ムードのないふたりが小競り合いながらしげみの陰に身を隠した。
 庭園を散策しているディートハルトとエルヴィラ王女を見つけたふたりは、気づかれないようにこっそりと顔をのぞかせた。
 ディートハルトの隣にいるのが、エルヴィラ王女。
 まず目に飛び込んだのはあざやかな赤い髪だった。
 長い赤毛を頭の高い位置で結い、まっすぐと背中に垂らしている。シャンパンゴールドのシンプルなドレスが包むのは、女性らしい曲線。
 ツェツィーリアたちがいる場所からは横顔しか見えないが、鼻梁は高く、薄紅色の唇の口角はきゅっと上がり、勝気そうな笑みを浮かべていた。
 ディートハルトが好みそうな美人だ、と、ツェツィーリアは思った。
 彼はどちらかというと従順でかわいらしいタイプよりも、気の強い美人を好むのだ。
 ツェツィーリアはそう思っている。
(そういう女を、屈服させるのが好きなのよ……)
 エルヴィラ王女は、ツェツィーリアが思っていたよりもずっと大人っぽく、綺麗だった。
 ツェツィーリアは、かわいいものや、美しいものが大好きだ。だからこそ美しい少年が好きだったし、かわいければ女でも危うく手を伸ばしそうになったこともある。
 しかし、ディートハルトの隣に並ぶ彼女の美しさには不思議とちっとも惹かれない。それどころか粗を探してしまう自分に戸惑った。そして彼女の容姿に欠点が見つからないことにもいらいらとする。
(赤い髪もツヤツヤしてきれいだけど……まるで溶岩流みたいだし、あれを振り回されたらきっと怪我をするに違いないわ)
 ようやく粗を絞り出したものの、むなしさを感じるだけだった。
(髪を下ろせば、欠点がなくなるもの……。そもそも髪なんて振り回さないかも知れない……)
「綺麗になったなあ……」
 隣で素直につぶやくエリクにツェツィーリアは舌打ちをした。こういうときに限ってなぜ、いつもの口の悪さが出ないのかと。
「ねえ、そう思わない? ツェツィーリア」
「……あれで16歳ですって。小娘じゃない」
「ふあっ!?」
 エリクはびっくりしたように間の抜けた声を出して、ツェツィーリアを振り返る。
「16歳ってどこ情報……?」
「宰相のベルマーさんがそう言ってたわよ。ローゼンフェルトの女の子はみんなあんなにマセガキなのかしら? 胸だってわたしほどじゃないけどけっこうあるわよね。背もそこそこ高いわ。ディートハルトが大きいから、16歳とじゃ親子にしか見えないと思ってたのに……」
「へえ……。うん、まあ彼女はマセてるのかもね……」
「さっきから彼女を知っているような口ぶりよね」
「まあね。前にちょっとだけ。それより見なよ、あのふたり。すごくお似合いじゃない?」
「………………」
 夕暮れの薔薇の小径に立ち並ぶふたりは、まるで一幅の絵画のように美しかった。
 さすが王族というだけあって身のこなしもすっきりと美しく、何よりもふたりの容姿が釣り合っている。
 堂々たる体躯をした銀髪の王の横に臆することなく並ぶ、赤毛の美しい王女。
 髪の色はまったく違うが、まとう空気がよく似ている。
 今日が初対面とは思えないほど、彼らが並ぶ姿はしっくりとくるものだった。
 エルヴィラが何かにつまずいたのかよろめくと、ディートハルトの腕が彼女をしっかりと支える。エルヴィラは彼の腕につかまって微笑んで何か言うと、ディートハルトも笑顔を返した。
 エルヴィラはそのまま自然にディートハルトの腕に自分のそれを絡ませて歩き出す。
「ねえ! あれ、絶対わざとよね」
「わざとだね」
 ふたりはうなずきあった。
 適当に案内して追い返すのだと言っていたくせに、ずいぶんと愛想がいいものだ。ディートハルトは優しい笑顔で、エルヴィラの腕を振りほどこうともせず紳士的にエスコートしている。
 彼のあんな顔は見たことがない。
 ツェツィーリアの胸がざわついた。
 痛みを伴いながらちりちりと焼けるような、焦燥。ラウラや侍女たちに感じた感情とはまるで違う。
 ディートハルトとエルヴィラは話が途切れる様子もなく、時折お互いを見ては微笑みを交わし、最後までツェツィーリアたちに気づくこともなかった。
「…………」
 群青色に染まっていく空の下、ディートハルトはエルヴィラの手を取り、城へと戻っていく。
 そのうしろ姿を、ツェツィーリアはじっと見つめた。
 あの王女は、自分にないものをすべて持っている。自分にできないことが、すべてできる。ディートハルトに釣り合う身分も、後ろ盾も、容姿も、すべて持っている。
 大国ローゼンフェルトとのつながりも強め、彼の子どもを産んでベアグルントの繁栄に大いに役に立つだろう。
 それに引き換え自分は、何も持たず、何ももたらすこともできず、ただ自らのためにディートハルトを独占し、彼の結婚や、子どもを持つ未来すら奪おうとしている。申し訳ない気持ちはずっと抱いていたが、ツェツィーリアはいま初めて、そのことに激しい劣等感を覚えていた。
 あの王女は好きじゃない。けれど、うらやましかった。自分がけして立つことのできない立場にいることが。堂々と王の隣に立てる場所にいることが。
 ツェツィーリアはその立場を強く望んだことはない。魔女である彼女には考えられないことだったし、彼の愛さえあれば、立場などどうでもいいと思っていたから。けれど、いま、目の前には彼の隣に並ぶのにふさわしい女がいる。小娘だろうが、すべてを兼ね揃えた、完璧な王女。
 あたりまえのようにディートハルトに手を取られ、優雅な足取りで歩く王女。
 望んだものはすべて手に入ると信じて疑わない温室育ちの花のように、自信に満ちた美しさだった。

「あの王女さまが邪魔? 追い払ってあげようか?」

 立ちすくむツェツィーリアにささやくのは天使か、それとも悪魔か。
 その声に反応して、ツェツィーリアがゆっくりと視線を落とすと、悪戯をしたくてうずうずしている子どものような顔をしているエリクがいた。
「ツェツィーリア、あの王女さまが嫌いなんでしょ?」
「そういうわけじゃないわよ……」
「そうなの? でも、王さま、ずいぶん楽しそうにニコニコ笑ってたし、まんざらでもなさそうだったよね。まあいちばん好きなのはツェツィーリアかも知れないけど、二番目くらいには好きになってもおかしくないよね」
「二番目ってどういうこと?」
「うーん、子どもを産ませてもいい程度?」
 エリクはツェツィーリアの黒い瞳に語りかける。
「そうなれば、いろんなことが解決するよね。あの王女さまが王さまの子どもを産んでくれれば、ツェツィーリアはもっと堂々と王さまの恋人をやれるんじゃない? 肩身のせまい思いもしなくなるしさ」
 もし、ディートハルトがエルヴィラを気に入って妃にするのなら、それがこの国にとって最善だろう。彼も養子に悩まなくてよくなるし、後継ぎだって実の子がいいに決まっている。ツェツィーリアの存在をエルヴィラが許すかどうかはわからないが、きっと、ディートハルトならうまくやるだろう。
 そうすればエリクの言うとおり、引け目を感じずに彼のそばにいられるのだろうか。
 けれども、ツェツィーリアの心は千々に乱れていた。
 ディートハルトの腕があの王女に触れるのを見ただけで、こんなにも胸が苦しくなる。
 彼の笑顔が彼女に向けられただけで、どうしようもなく不安になってしまう。
 ディートハルトがあの王女と裸で抱き合い、ひとつになるところを想像する。愛をささやいて優しく愛撫して、そしてときには荒っぽくして、彼女をたっぷり鳴かせたあと、その無垢な身体にたくましい雄を沈めるところを。
(ダメよ……)
 もしかしたら、初夜から変態っぷりを発揮して玩具なんかも使うかもしれない。
 もちろんツェツィーリアの作った玩具だ。初心者だからときっと振動石あたりで陰核を刺激して、初心な16歳の王女を羞恥と快楽の中に落としていくのだ。慣れてくればもっといろいろなモノを試したくなって、ある日ツェツィーリアに言うだろう。『新作はまだか?』と。
「そんなの絶対ダメ!」
 ツェツィーリアは叫んだ。
「ダメダメダメ!! 呪いがあふれ出しそうよ!」
「ちょっとちょっとちょっと、落ち着こうよ、ツェツィーリア」
 ぎょっとしたエリクに腕をつかまれる。
 うっかり自分の妄想で呪ってしまうところだったが、乱れた心はまだ収まらなかった。
「そんなのダメなんだから! そりゃあの王女は理想的な結婚相手かもしれないけど、ダメなのよ! そんなのいやよ! ディートハルトがほかの女とあんな、あんなこと……そんなの無理だわ」
「何を想像してるのかは察するけど、君たちいつもあんな変態プレイをしているの?」
 さらりとふたりの睦み合いをのぞき見たと匂わされるが、いまのツェツィーリアの頭に入ってこなかった。
 以前、この縁談の話を聞いたときは、自分の宿命に諦念を抱き、ディートハルトに「結婚してもかまわない」などと言ったが、大馬鹿だった。
 そんなこと、耐えられるはずがないのだ。
 ディートハルトは愛情深い男だ。
 自分を慕い嫁いできた王女を蔑ろにして、ツェツィーリアばかりにかまうことはないだろう。きっと、それなりに大事にするはずだ。
 そして、孕ませたあとは放置するような男でもない。むしろ自分の子どもを宿した王女を本当に愛するようになるかもしれない。
「いや……っ!」
「へえ、意外と嫉妬深かったんだね。僕が王さまの縁談の話をしたときは冷静に見えたのに」
 意外そうに片眉を上げるエリクに、ツェツィーリアは噛みつくように言った。
「あのときが冷静じゃなかったのよ!」
「いまの反応をあのとき見たかったよね。たぶん王さまも……」
 エリクがクスクスと笑う。
「じゃあさ、僕が王女を追い払ってあげようか?」
 やはり悪魔のささやきだ。
 それは彼女を甘く誘惑する。
「……どうやって?」
「それはいくらでもやりようはあるさ。ねえ、そうだ、ゲームをしようよ」
「わたしは頼むなんてひと言も言ってないわ。あなたが関わるとロクなことにならないんだから……」
 けれど、そう言うツェツィーリアの声には勢いがなかった。
 駄目だとわかっているのに、この悪魔の誘惑に逆らえなくなってしまっている。
 あたりが一段と暗くなり、エリクは空を見上げた。いつのまにか厚く黒い雲が低く垂れ込んでいた。
「ひと雨来そうだ。中に戻ろうよ。僕が言う条件をクリアできたら、エルヴィラ王女をなんとかして追い返してあげる。もちろんツェツィーリアや王さまが困るような状況にはしないようにさ」
 聞いては駄目。
 そう押し止める声は、ツェツィーリアの中からいつのまにか消えていた。
(ディートハルトがほかの女を愛するなんて、いやよ。この魔女ツェツィーリアが許さないわ)
 そう、自分は魔女なのだ。
 欲望に忠実な魔女だ。
 欲しいものは手に入れ、誰にも渡さない。
 彼を、奪われたくない。


◇ ◇ ◇

 ツェツィーリアは部屋に戻ると、チェストの中をあさり、古びた本を取り出した。
 以前この城の図書室で見つけてきたものだ。
『実践魔術―初級編―』
 読みもせずに、しまい込んで返し忘れたままだった。
 どこかの魔族の持ち物が人間の手に渡ったのだろうが、魔力のない普通の人間にこの本を使うことはできない。
 ツェツィーリアの魔力は強かった。
 だが、それはほとんど時間魔法を使うために必要な魔力であり、普通の魔法には生かせない。残りは性玩具などを作るときに使う性的な魔力程度しかなかった。
 ほかの魔女は、魔力がさほどなくてもこういった魔法書で勉強をすれば、器用にあれこれできるようになるらしい。
「わたしだって、やればできると思うのよ」
 ツェツィーリアは魔法書の目次をたどり、目当ての項目を探す。
「エリクは魔法を学んだと言っていたけど、魔力は後天的なものだから家系に伝わるような独自の魔法ではないのよね」
 となれば、彼が学んだのは魔法書のはずだ。
 ツェツィーリアの読みは当たり、エリクの使った魔法そのままが書いてある章を見つけ出した。
「部屋の模様替えに……。植物に覆われたロハスな南国編……。ロハスってなによ? ていうかあの魔法、本当に部屋の模様替えのための魔法だったの?」
 危険があるもしれないからけしてこの部屋には入ってはいけない。ディートハルトに口を酸っぱくして言われていたが、ツェツィーリアはためらいもなくそのドアを開けた。
 南国の植物に覆われたディートハルトの寝室。
「なんだか、より鬱蒼とした気がするわね」
 ツェツィーリアは深いスリットの入った長いスカートをたくし上げ、床に横たわる大きな木の枝をまたぎながら窓辺へと向かう。
 窓には派手な柄のカーテンがかけられている。これもエリクがやったのだ。
 ツェツィーリアはカーテンを引っぱり、クンクンと匂いを嗅いだ。
「これは、魔法じゃない……くすねたのは魔法でも、自分で付け替えたのね」
 壁にかかるタペストリーや、趣味の悪い置物などからも魔法の匂いはしなかった。
 ということは、エリクが自分で設置したのだろう。けっこうたいへんだったはずだ。
「意外と心がこもってたのね」
 エリクが何を考えているかさっぱりわからなかった。
 それはさておき、そいうことなら、この部屋で魔法を使ったのはこの樹木だけだろう。木は、四隅と部屋の中央に合わせて五本。しっかり床に根を張り、無数の枝が長く伸びて部屋全体にはびこっている。
「これを解いたらわたしの勝ち。王女を速やかに、つつがなく追い返せるわ」
 ツェツィーリアは魔法書を確認しながら、エリクの提案した条件を思い出す。
『王さまの部屋にかけた僕の魔法を解くこと』
「この魔法書があれば楽勝よ。でもまずは一本ずつ……。もといた南の大地に戻すのよ」
 ツェツィーリアは木の前に魔法書を床に置き、仁王立ちになった。手のひらに集中して目の前にかざす。
 徐々に手のひらが熱くなってくる。いい感じだ。
 そして、手のひらから魔力を少しずつ放出しながら、暗記した呪文を唱え始めた。
「メルクリウス・ウェヌスマルス……ユピテル・サルトゥヌス……生命を司る惑星たちよ、時の魔女の名において命ずる! ……あ、えっと、いまなんか抜けたかしら?」
 ツェツィーリアは足元に置いた魔法書を確認しようとしゃがんだ。
 暗記は昔から苦手なのだ。
「ああ、抜けてたわね。やり直すから、いまのはなしでっと……えっ、きゃあああっ」
 立ち上がろうとしたとき、足首に木の枝が絡みついてツェツィーリアは床に尻餅をついた。
「いった……」
 何が起こったのかと目を瞬かせてみれば、信じられない光景が広がっていた。
 壁や床に張っていた木の枝が動き出し、蠢き出している。まるで生命を与えられたように、ゆらゆらとうねりながら、ツェツィーリアを取り囲み始めていたのだ。
「嘘でしょ……」
 ツェツィーリアはあわてて魔法書を拾おうとするが、あまりのことに驚いて身体がついていかない。
 足首に絡みついた枝の質感がどんどん変わっていくことに気がついた。
 硬く乾いた木の枝は、いつのまにかやわらかく弾力を持ち、湿り気を帯びている。
「まさか……わたしの性的な魔力が作用して、木の枝が触手化したの?」
 ツェツィーリアは、ぬらぬらと妖しくうごめく木の枝に、背筋が凍った。
 触手は蛇のようにぬるぬると四肢に絡みつきながら這い上がってくる。ツェツィーリアは真っ青になった。
「いやっ! なんなの……っこれ……!」
 不発に終わったと思った魔法だったが、ツェツィーリアの手のひらから放たれた魔力はしっかりと樹木に降りかかっていた。
 この木に意思が宿ったわけではないが、あまりに意図の明確なその動きに、ツェツィーリアはますますあわててしまう。これは非常にまずい状況だ。
 彼女の魔力は性的な作用がとても強い。
 だからこそ優秀な淫具を作れるのだが、逆に言うと性的な魔法しか使えないとも言える。
(そういえば……恋を操るネックレスもただの媚薬アイテムになったのよね)
 彼女の魔力によって淫具と化してしまった木の触手は、トロリと怪しい粘液をにじませながら、幾重にも腕や脚に絡みついてくる。
 ツェツィーリアの両腕はバンザイをする格好で触手に拘束され、脚は大きく開かされた。
「ひっ! や、やだやだ……どうしよう、これ、こんなの、予定外もいいところよ!」
 何本ものぬるついた触手が胸の谷間に侵入し、服の中で暴れまわった。
 胸のふくらみのかたちを確かめるように這いまわり、敏感な先端に絡みつこうとする。やがて耐えきれなくなったのは彼女の服のほうで、肩紐が切れるとふるんっと弾むように大きな乳房がまろび出た。
 待ってましたとばかりに、さらなる細い触手が乳房に巻きついて、裾野からきつく絞りあげる。
「いっ……ぁああっ……」
 もともとは木の枝だが、それはもうすでに触手を持つ淫具だ。きっともういやらしいことしかしないだろうことを、ツェツィーリア自身がいちばんわかっていた。
(わたしの魔法だもの、そりゃあそうよ!)
 触手の先端はさまざまなバリエーションの形状をしていて、ツェツィーリアの手足に巻きつくのは太い縄のような単純なかたちだが、彼女の胸の突起に狙いを定めているのは、先端が筆のようになっているものもあれば、吸盤のようになっているものもある。
 ツェツィーリアはそれらの用途を察して身を強張らせた。が、両手足を広げたまま拘束された状態ではなすすべもなく―――
「ふあぁぁっ……」
 むき出しの胸の頂を、筆のような先端でくすぐられた。
 中心から円を描くようにゆっくりとなでさすられれば、敏感なツェツィーリアの身体は甘いうずきをやりすごすことができずに甘い声をあげてしまう。
(うぅ、なんとかしなきゃ……なんとか……)
 しかし、肉体に与えられる快楽は強敵だった。
 乳房の根元からきつく縛られている痛みのおかげで、先端に施される甘い愛撫はさらに鮮烈な快感をもたらし、あらがいがたい。
「んっ、ン……」
 ツンと勃ち上がり上を向いている胸の突起を、筆のように極細の触手がワサワサと蠢きながら這いまわる。
 ツェツィーリアはうつむいて目を固く閉じ、唇を噛みしめた。
(な、なんでこんなことに……)
 何度もその言葉が頭をよぎる。
 庭でディートハルトとエルヴィラを見て、動揺してしまった。
 ふたりが並ぶ様子はあまりに自然で調和がとれていて、完璧だったから。高貴で美しく自信に満ちたふたりは、そのまま王と王妃の肖像のように見えたのだ。
 それに引き替え自分は身分もなく、訳ありの魔女で、ディートハルトを縛る存在でしかない。
 王女はずっと年下だし、将来的にもツェツィーリアのように彼を悲しませるようなこともないだろう。
 彼にとって、彼女を選ぶことが幸せになる道だとしたら? 彼の穏やかな幸せを願うのなら、障害となる自分が身を引くべきなのだろうか?
 そんな思いにとらわれた。
(でも、そんなのやっぱり駄目なのよ。だって、わたしはどうしたって彼を諦めきれないもの。彼を離したくない。奪われるのはいや!)
 ぐるぐると回る思考にあせって、短絡的に王女さえいなくなればと思ってしまった。
 そして、エリクとの賭けに乗ってしまったのだ。
(だってよく考えたら無理よね。いままで普通の魔法がちゃんと使えたことなんてなかったのに! やればできるなんて、なんでそんなこと思っちゃったのよ! バカ、わたしのバカ!)
 そうこう思いを巡らせているうちに、吸盤の触手がツェツィーリアの胸の先端に吸いついてきた。このために作られたのかと思うほど乳首にフィットしたそれは、ちゅるっと吸い上げて粘液を絡ませてはいやらしい水音を立て吸引してくる。
「ひぁっ……や、やぁ……ひっぱらないで……!」
 一方、指ほどの太さもない触手がわさわさと彼女の太ももを這い上がり、スカートに隠れた下着の隙間から忍び込んでくる。
「ひいいっ、今度は何!?」
 脚を閉じたくても、肩幅より大きく開いた状態でしっかりと固定されているため逃げられない。
 下着の中に入り込んだ極細触手たちは器用に花弁を左右に広げ、妖しげな動きでにゅちにゅちと蜜口や花芯をこすりあげてくる。それぞれが自由に動き回るので、いったい何本いるのかもわからないが、目的はひとつ、彼女の官能をあおることだというのはよくわかった。
「んっ、ふぅ……ぁ、あぁ」
 この水音が粘液だけではないことに自分でも気づいていた。すでに蜜が奥からあふれ、すっかりとろけてしまっている。この粘液には、彼女の玩具にお約束の媚薬成分がふくまれていることは明らかだった。触れられた場所からじんじんと熱いうずきが全身にひろがっていた。
 自分の性魔力の優秀さがいまは憎い。
 器用な触手が陰核の包皮を剥くと、ほかの触手がそこに絡みついてくる。すでに膣の中にも何本か這入り込んで、ちゃぷちゃぷと奥からあふれる蜜をかき出している。
「いやあぁっ! やっ、あんっ! 何コレっ、んんっ、すご……」
 指とも舌とも異なる感触に、ツェツィーリアは肌を震わせた。
 正直に言うと、気持ちよすぎた。
「やんっ、あぁ、だめっ、ああぁっ! いっちゃういっちゃう!」
 どうしてこんな情けないことになっているのか、もう考える余裕もなくなっていた。
 思考は途絶え、媚薬に侵された肉体の感覚だけが鋭敏になり、触手の粘液と自分の愛液が混じり合う粘質な水音に耳まで犯されて、彼女はあらがう術もなく絶頂を迎えた。
「こ、こんなの、最、悪……」
 ぐったりと脱力したツェツィーリアが意識を取り戻すと、いつのまにか、あちこちに絡みついた触手によって身体を宙に浮かされていた。
 ドレスはほとんど衣服の役割を果たしておらず、胸にも下腹部にも隠す布地は残されていなかった。身体中にヌルヌルした粘液をまぶされ、白い肌が妖しい光りを帯びている。
「ふぁ……あぁ……おねが、もう、やめ」
 ツェツィーリアのひざに絡みついた触手が、彼女の脚をゆっくりと左右に開いた。
 余すところなく外気にさらされた秘所が心許ない。
 ぼんやりと下腹部に目をやると、そこには男性器さながらの太い触手が蠢いていていた。
(お、大きい……)
 それは自身の粘液と彼女の愛液をなじませるように、秘裂に沿って何度も往復している。
「やぁっ……やだ、ん、あぁっ、だめ……」
 ツェツィーリアはグチュグチュと聞くに耐えない水音に耳をふさぎたくなった。こすられているうちに、触手はどんどん硬くなり、彼女を貫くだけの硬度を持ち始めた。
「やだっ、やめて、やだったらぁ!」
 にちゃっと強く押しつけられ、先端がめり込んでくる。
「んっ……!」
 かと思うとすぐに引き、にゅるにゅると秘裂をこすり花芯を嬲る。焦らすような動きが、彼女の思考をふたたび奪おうとしていた。
 じんじんとうずくような快感に頭がぼうっとする。
 とりあえず意識は保っているが、媚薬のおかげで何もまともに考えられない。
 最初の目的なんて忘れてしまった。
 いま考えられることはただひとつ。秘部で遊んでいる太い触手を身体の奥まで挿れてほしいということだけだ。
「ん、あぁ……もう、いや……はやく……ぅ」
 とろんとした瞳でツェツィーリアがそう懇願すると、突如ぐっと強く押しつけられる。
 快楽への期待で瞳を閉じたそのとき―――。
 がちゃり、とドアの開く音が、ツェツィーリアの意識を引き戻した。

[eロマンスjpの連載情報はツイッターでcheck!]

全話スグ読める電子書籍はコチラ↓

時の魔女と少年王[4]

時の魔女と少年王[4]

著  者
奥村マヨ
イラスト
純友良幸
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
648 円(税抜)
シリーズ
時の魔女と少年王
※各配信書店で販売金額が異なる場合があります。

以下の書店名をクリックすると、電子書籍版の購入ページへ移動します。

配信書店の一覧はこちら