大好きな彼氏と同棲がスタートして、会えないヤキモキなどもありながらもなんだかんだ幸せな生活を送っていた私、新條真帆、二十六歳。
 私の彼氏である本橋敬一は、製薬会社に勤める典型的な理系男子。ある日、そんな彼との幸せな生活を揺るがす大事件が発生した。

「ただいま~」
「おかえり!」
 大荷物を抱えながら、見慣れた玄関の扉を開ける。よいしょ、と声を出しながらキャリーバックと大きなボストンバッグを床に置いた。
「お姉ちゃん、おかえり。私の予想よりは遅かったね」
「莉奈……語尾に草を生やさないでくれる?」
 玄関まで迎えに来てくれたのは、二十二歳という今年社会人になったばかりの若さはじける妹の莉奈。
 くすくすとこらえられていない笑いをこぼしながら私の大荷物を運ぶのを手伝ってくれている。
 つやっつやの髪に、短めのスカートから伸びる生足。四つしか離れていないのに、すごく若く感じるのはなぜ……っ?
 莉奈の言う「遅かったね」とは、帰宅時間が遅いことを差しているのではない。
「まさか彼氏と同棲する~なんて意気揚々と出て行ったのに、出戻ってくるとはね。ふふ」
「笑わないでよ。これには深い事情があるんだから」
「別れたわけじゃないんだ?」
「あたりまえでしょ。ラブラブだから、その辺はご心配なく」
 そう、そうなの。
 私と敬一はとある理由があって同棲を解消することになってしまった。
 なので、この大荷物は敬一の家に置いていた私物たち。
 結婚前提で同棲したはずなのに、こうして出戻ってきたものだから、両親や妹は別れたんじゃないかと疑ってきているけど、本当に破局したわけじゃないの。
 じつは――


 一ヵ月前。
「真帆ちゃん、大事な話があります」
「え? どうしたの?」
 ひさしぶりに一緒のお休みがあって、昼間はデートを楽しみ、家に帰ってから心ゆくまでベッドで愛し合ったあと、ピロートークをしようと横になったら敬一がそんなことを言い出した。
「僕に弟がいることは以前にお話ししていたと思います」
「うん、家系図もらったもんね」
 正式に交際をスタートさせたころ、敬一は結婚を視野に入れたお付き合いだと言い出し、結婚は家と家との結びつきだということで家系図を渡してくれた。
 通常結納のときなどに渡す家族書や親族書みたいなものではなく、三親等まできっちり書かれた家系図で驚いたことを思い出す。
 敬一の家族は、父と母、そして弟。その四人家族で構成されていた。
 弟さんは二十四歳で地元の薬科大学に通っていると聞いていた。薬科大学って頭がよくないと入れないよね。
 しかも理系だ。敬一と同じく理系男子なのだと嬉しく思った。
 そして兄弟そろって頭がいいんだなーと尊敬!
「……で、弟さんがどうしたの?」
「はい。その弟、大貴が大学を卒業し今年の春から就職で上京してくることになって……」
「わぁ、就職決まったんだ! おめでとう~。どこに決まったの?」
「都内の大学病院の院内薬局の薬剤師として働くことになったそうです。そのせいで大貴がここに住むと言い出しました」
「えっ!!」
 なんですと!?
 ここに住むって、ここは1LDKのマンションだ。二人で住むので精いっぱいな感じなのに三人で住むなんて不可能だ。
 しかもそれでなくてもとある事情でこの家に存在する本格的なラブドールの“おねだりマホちゃん”もいるから正確には四人の生活になってしまう。
「僕はだめだと言ったのですが、大貴はものすごくお金の計算にうるさくコストの点で考えてここに住むのがいちばんいいと言って聞きません。しかし僕は仕事でいない時間も多いですし、大貴と真帆ちゃんと密室で過ごすことは許しがたい」
「はぁ……」
 この話、なんだか嫌な予感がするぞ。
 この先の展開が読める気がして、不安がよぎる。
「なので、申し訳ないのですがいったん同棲を解消しましょう」
「えええーっ」
 弟をなんとしてでも来ないように阻止するとかでなく、私が退去することになるんだ!?
「一度言い出した大貴を止めることはできません。ここは一度大貴を迎え入れ、そして男同士の同居がどれだけよくないものか体感してもらうしかないと思っています」
 ほう……。
 せっかく紆余曲折を経て、最近では仲良く同棲生活を送れるようになってきたというのにまさかの解消!
 いま現在、事後で性的欲求が満たされているから穏やかに聞けているけれど、もし欲求不満時に聞いていたら大ゲンカに発展していただろう案件だわ。
「うう……さびしいよ、敬一……」
「僕もです」
「本当?」
「はい」
「じゃあさ、この話を飲む代わりに、いまからもう一度エッチして」
 こんなに悲しい気持ちにさせたんだから、忘れるくらい激しいエッチをしてほしいとねだりしてみる。
「……本当にすみません。わかりました、真帆ちゃんの仰せのままに」
 そう言って、敬一は私の上に覆いかぶさり二ラウンド目が開始された。


「てなワケなのよー」
「最後のエッチの件、いる? 誰トク情報?」
「いいじゃん、それくらい仲がいいって証拠!」
「へぇ……」
 莉奈にそう話しても、やっぱり破局寸前なんじゃね? 的視線を送ってくる。本当にラブラブなんだってば!
 とにかく、同棲解消をしてしまったけれど、私たちの仲の良さは健在だからご心配なく。
 それよりも、いまの私は敬一の弟である大貴くんに少々腹を立てている。
 敬一と幸せな同棲生活を邪魔する弟がどんな人なのか、この目で確かめないと気がすまない。
 来週には上京してくるらしいから、そのご尊顔を拝してやろうじゃないの。
「お姉ちゃん、なんかすごく怖い顔してるよ」
「ふふふ……」
 闇堕ちした私は邪悪な顔をして、そんなことを考えていた。

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理系男子の童貞を奪ったらたいへんなことになりました

理系男子の童貞を奪ったらたいへんなことになりました理系男子増量しました

著  者
藍川せりか
イラスト
淀川ゆお
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
シリーズ
理系男子の童貞を奪ったら
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