時の魔女と少年王[5]

なりふりかまっていられないのです
第1回

なりふりかまっていられないのです

時の魔女と少年王
2019/01/31公開
 城の庭は四季咲きの薔薇の芳しい香りに包まれていた。
 ここだけでなく、中庭や空中庭園には常に色とりどりの花が植えられており、廊下やサロンにも、毎日趣向を凝らした花々が飾られていた。
 ツェツィーリアはこの城に来てから、花の香りを嗅がない日はなかった。
「エルフリーデさまの……ご趣味とか……?」
「いま、その話はいいだろう?」
「あっ……」
 太い木の幹を背にして、片脚を抱えられたツェツィーリアは、ディートハルトにしがみついた。
 彼の硬い雄茎が濡れた花弁を割り、中へと押し入ってくる。ぐちゅっ、と濡れた音をたてながら淫壁をこすり上げ、ツェツィーリアの無駄口を喘ぎに変えた。
「あぁァっ……!」
 奥まで到達したそれは、ゆっくりと彼女の中を蹂躙する。
「ん、んぅ、あぁ、ディートハルト……こんなところで……」
 城の庭――いつ、誰が来るかもわからない場所だ。
 しかも、まだ陽は高い。
「こんなところもなにも、おまえが誘ったのだろう?」
 ディートハルトが、熱い息とともにささやいた。
「さ、誘ってなんていません!」
「まだいろいろと忙しくてな……。あまり相手をしてやれなくて悪かった」
「あ、あぁんっ、だから、そうじゃなくて……」
「待ちきれなかったのだろう?」
 通常の公務や、書類仕事に追われているディートハルトが、私室に戻る時間は遅い。
 時の魔女の秘密を打ち明けようと決めたツェツィーリアだが、疲れきった彼を鞭打つような、つらい話を切り出すことができず、悶々と日々を過ごしていた。
 思いきって、昼食のあと話をしたいと庭園にディートハルトを呼び出したら、どういうわけか結局こうなってしまったのだ。
(こんなはずじゃ……でも、きもちいい……)
 夜はエルヴィラやエリクとつるんで暇をつぶし、彼が帰ってくる前に寝てしまう。そんな生活だったので、正直、ディートハルトの身体は恋しかった。
「そんなにも欲求不満だったとは」
「ひあぁっ、だめ……っそこ、いやぁっ!」
 多少、欲求不満だったことは間違いない。それにどんな場所であろうと、どんなときであろうと、彼にいやらしいことをされてしまえば、身体は悦んで受け入れてしまう。
「はぁ、あ、あぁぁっ……」
「いやに締まるな……」
 ディートハルトは、ツェツィーリアの身体を幹に押しつけ、腰を深く突き入れた。高い声が漏れないように、キスで唇をふさぐ。
「んーっ! ん、んんっ!」
 さらに激しい動きでツェツィーリアをえぐり、彼女の中を欲望のままに味わい尽くす。大きく、リズミカルに。彼女のいい場所は知り尽くしていた。
 ツェツィーリアは言葉を封じられたまま、快楽の高みに昇りつめていく。彼のものが出入りするたびに、奥からとめどもなく蜜があふれ出し、はしたない音を大きくしていった。
「んンン……っ!」
 絶頂にヒクヒクと痙攣するツェツィーリアの肉に締めつけられて、ディートハルトもまた終わりを迎えようとしていた。
「ツェツィーリア……出すぞ……」
 ツェツィーリアは首を振った。
「だめ……」
「まだ足りないのか? だが……」
「く、口に……」
「そういう趣向か」
 ディートハルトはわずかに眉を上げ、にやりと笑った。
(そういうわけじゃないのだけど……)
 これからする話の内容を考えると、妊娠する可能性のある行為は罪悪感が伴ったからだ。しかしその提案は、不審に思われることもなく、すんなりと受け入れられた。
「ひぁっ!」
 ぐちゅっ、とひと息に引き抜かれると、ツェツィーリアはその場にへたり込んだ。一度達したせいで腰に力が入らない。息を整えながら顔を上げると、目の前には、いまにも欲望が弾けそうな硬く張り詰めた男根があった。
「ツェツィーリア、口を開けろ」
 ツェツィーリアは言われるままに口を開け、彼のものを受け入れる。
 自分の蜜で濡れたそれは、淫らなが味がした。
「んっ、んン……」
 けれど、口内はすぐに、彼の雄の匂いと味で満たされた。ディートハルトの放った欲望が、どくどくと注ぎ込まれる。おいしいとは言い難いが、彼の一部だと思うと嫌いにはなれない。口の中でびくっと震える彼自身の感触も嫌いではなかった。
 ツェツィーリアは、口の中に満ちた彼の欲望を飲み下す。
 抱えた秘密とともに。
 どろりと重く喉を通り過ぎるそれは罪の味がして、彼と目が合わせられずに瞳を伏せた。ディートハルトのことを思えば、早く打ち明けたほうがいいのはわかっている。そのつもりだったけれど。
(今日も、言えなかったわ……)
 エリクの軽さにつられて、彼に秘密を告白すると決意したものの、いざとなると簡単には言葉が出てこない。ディートハルトに自分の望みを受け入れてもらえるのか。そして彼の望みを、想いを知ることにも怖じ気づき、時間が経てば経つほど不安だけがふくらんでしまっていた。
 彼に伝える真実。
 そして彼の望む幸せ。
 きっとディートハルトなら、ツェツィーリアの望みを理解してくれると信じているが、あと一歩の勇気が出なかった。
 彼に身体を求められてあっさりと流されてしまうのは、彼に抱かれている間は何も考えられなくなるからだ。逃げている自覚はある。
(次は、必ず打ち明けるわ。次こそは……)
 何度目の誓いであるかは忘れたが、ツェツィーリアは次こそ必ず、と新たに胸に誓いを立てた。
 ◇ ◇ ◇


 その日の午後、ディートハルトはエルヴィラの部屋を訪問した。
 晴れた日には、この客間の窓から遠くの山々がよく見える。今日も陽の光を受けて、その鋭利な輪郭をくっきりと現していた。
 その窓を背にして姿勢よく立ったエルヴィラは、祖国での身分は捨ててかまわない、とディートハルトに言った。
「その件は、いっさいおまかせしますわ」
 窓から臨む山の向こうに、エルヴィラの故郷、ローゼンフェルトはあった。
 正確には、あの山々はすべてローゼンフェルトのものだ。
 エルヴィラの父親が、ローゼンフェルト王ではなくディートハルトの叔父マリウスだったことがわかり、ベアグルントは、彼女を正式に王家に迎え入れるべく動いていた。
 ディートハルトは今日、その件を理由にエルヴィラの部屋を訪れていた。
「わたくしは、陛下に嫁ぐ目論見で来たのです。もともと、ローゼンフェルトに帰るつもりはありませんでしたもの」
「そうでしたね」
「もっとも、呪われた下半身でしたから、まともな結婚生活は送れなかったでしょうけれど、とにかく嫁いでしまえばこちらのものと思っておりました」
 エルヴィラは最近、ずいぶんとあけすけなもの言いをするようになってきた、とディートハルトは思う。
 唯一のお付きの侍女をローゼンフェルトに帰したため、この部屋にはディートハルトと、エルヴィラしかいない。侍女が行う雑務は、彼女の個人的な奴隷、エリクにやらせているらしいが、そのエリクもいまはこの部屋にいなかった。エルヴィラとふたりで旅に出るのだとはりきっていたエリクがここにいないのは好都合だ。
 ディートハルトが彼女の部屋を訪れた本当の理由は、ほかにあるからだ。
「陛下とツェツィーリアさまの事情は存じていますわ。お世継ぎの件ですわね」
 ディートハルトは驚いた。
「ご存じでしたか」
 エルヴィラはうなずくと、背後の窓を開け放った。
 ひんやりと心地よい空気が部屋に流れ込み、エルヴィラの軽くまとめた長い赤毛が、さらりと揺れる。
 彼女はバルコニーに出ると、新鮮な空気を大きく吸い込んだ。
「ベアグルントの空気は好きですわ。澄んでいて、とても優しい。心にさわやかな風を運んでくれます」
 彼女に続いて、ディートハルトもバルコニーに出る。
 ローゼンフェルトの王都のほうが人口も多くはるかに都会だったが、彼女はこの国ののどかな風景を気に入ったらしい。外の風は少しひんやりとして、ベアグルントの長い夏が終わり、季節が秋になろうとしていることを告げていた。
「わたくし、陛下の従兄妹として国母になるのも、またおいしいことだと思っていますのよ」
 またしても意外な答えだった。
「それに、もう、どこだろうとわたくしの望みは叶いますもの」
「貴女の望みとは?」
 エルヴィラは、ゆっくりとディートハルトを見上げた。
「自由。ローゼンフェルトと縁を切り、自由になることですわ」
 祖国の名を口にしても、その深い海のような濃紺の瞳には、郷愁の想いのかけらも映っていない。
「わたくし、ローゼンフェルトではもどかしい思いをしていましたの。母共々、父や兄妹に疎まれ、呪いに縛られ、どこへもゆけず。好き勝手やっておりましたが、王宮でのわたくしは、所詮、呪われた王女。あの城を飛び出したくてしかたがありませんでした」
「けれど――この国でも、貴女には王族として城に留まっていただくことになりますが」
「陛下、王族だから不自由というのは間違っています。だってわたくしはいま、とても自由な気持ちですもの!」
 エルヴィラは一点の曇りもない笑みを浮かべた。
 いまの彼女は、第一印象とはまるで違っていた。演じていた女性らしさが消え、むしろこの豪胆でおおらかな彼女こそが、本来の姿だったのかもしれない、とディートハルトは思う。
 彼女ならば、次期ベアグルント王の母として、不足はない。
「なので、陛下が頭をお下げになるまでもありませんわ。わたくしはこの国に留まり、ツェツィーリアさまに代わってお世継ぎをお作りしましょう」
「感謝します、エルヴィラ王女」
「従兄妹ですのよ。エルヴィラとお呼びになってください」
 エルヴィラは、ふふ、と笑った。
「陛下は、それほどツェツィーリアさまがお好きでいらっしゃるのですね。どうりで、初めてお会いしたときも色仕掛けが通じなかったわけですわ」
「最近、まわりにから、からかわれてばかりですが、否定はしません」
「まあ、正直でいらっしゃいますのね」
「なりふりかまっていられないのです」
「すべてはツェツィーリアさまのために……。素敵ですわ。もちろん、ローゼンフェルトとの縁を切ってくださった陛下とツェツィーリアさまのためですもの。ご期待に沿ってみせますわ。ああ、でも、ただひとつ、お願いがございます」
 これだけは譲れません、と前置きをして、エルヴィラはディートハルトを見つめた。
「わたくしの子の父となる者は、自分で選びたいのですけれど、よろしいかしら?」
「もちろん……かまいませんが、それは、まさか……」
 ディートハルトの頭に、真っ先にエリクの顔が浮かんだ。あの、天使の顔をした小悪魔が。
 国王である自分の選んだ相手が魔女なのだから、エルヴィラの相手にも身分や出自はうるさく言うつもりはなかったが、よりによってまさかあのエリクでは、と、胸に不安が込み上げる。
 エルヴィラが来てからはおとなしくなったものの、ツェツィーリアをそそのかし、引っかき回し、さんざんトラブルを起こされ迷惑を被ったことを思い出して、ディートハルトは眉間を押さえた。
 あれが将来のベアグルント王の父親になると考えただけで頭が痛くなる。
「あの、陛下。相手はまだ決めておりませんわ」
 ディートハルトの懸念を察したエルヴィラが、あわてて言う。
「奴隷兼、恋人なんて、エリクが好き勝手に言っているだけです。エリクには恨みがありますから、一生奴隷としてそばに置くことにはしましたが……いまは、ただそれだけですわ」
「たしかにエリクは貴女に酷いことをした……あれは、あまりにひどい呪いだった。私よりもはるかにひどい」
「そうですわ! 簡単に許せるものではございません! わたくしの女としての十年を奪ったあいつには、まだまだ痛い目を見せてやりたいと思っていますの」
「ええ、お気持ちはよくわかります」
 ディートハルトは、心底同意した。
 勢いづいたエルヴィラは、思い出したように怒りをあらわにした。
「18歳から28歳ですのよ! この貴重な期間で女として学ぶことは数多くあったというのに。いまだに、エリクを見るたび腹立たしさが湧き上がるのです。それなのにエリクときたら、軽々しくわたくしを好きだなんて言い出す始末。まったく反省していませんのよ?」
 頰を紅潮させて息巻くエルヴィラに、ディートハルトは既視感を覚える。
 過去に犯した罪の報いとして奴隷契約を結び、復讐を誓ったかつての自分と、ツェツィーリアだ。
 エルヴィラはもちろん嘘は言っていない。エリクのことを本当に腹立たしく思っているのだろう。復讐もしたいのだろう。
 しかし……。
「ですから陛下、安心してくださってけっこうですわ。エリクと結婚だなんてありえませんのよ」
 つん、と顎を上げて勝気に宣言するエルヴィラを、ディートハルトは複雑な気持ちで見つめた。
(しかし、その気持ちは、激しければ激しいほど、簡単に裏返ってしまうものだ)
 それも案外早く。
 ディートハルトには、すでにエルヴィラがエリクに惹かれているように見える。でなければ、一生そばに置くなどとは言わないに違いない。無意識のうちにエリクを求めていることに、彼女は気がついていないのだ。
(できるなら、一生気がつかないでいてほしいが)
 それとも、いまのうちに念書でも書いてもらうべきだろうか。
(いや、さすがにそれはやりすぎか……)
 魔女を伴侶に選んだ自分が言えることではないが、ディートハルトは将来のベアグルントを憂い、ふたたび眉間を押さえた。
 そこは賢明なエルヴィラの判断にまかせるしかない。
 これまでの価値観をくつがえすほどの愛をエルヴィラが手に入れられるのならば、それは幸せなことかもしれない。従兄妹として、彼女の幸せを願う気持ちもディートハルトの中にはあった。
 なるようにしかならないのだ、と、半ば諦めながら、彼女の部屋をあとにした。

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時の魔女と少年王[5]

時の魔女と少年王[5]

著  者
奥村マヨ
イラスト
純友良幸
レーベル
eロマンスロイヤル
価  格
648 円(税抜)
シリーズ
時の魔女と少年王
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