理系男子の童貞を奪ったらたいへんなことになりました

[1]いざ、結婚へのカウントダウン
第1回

[1]いざ、結婚へのカウントダウン

理系男子の童貞を奪ったら
2019/02/28公開
 彼氏の敬一から熱烈なプロポーズを受けて、左手に輝くエンゲージリングを見つめてニヤニヤが止まらない。
 「ふふふ……」
 正式なプロポーズを受けたあと、彼の両親に挨拶にいき、結婚の承諾を得ることができたうえに、心配していた顔合わせも、とてもスムーズに済んだ。
 敬一の両親はふたりとも明るく社交的で、どうして息子たちがあんな感じになったんだろう? 全然似てないな……と思うほど、すんなりと仲よくなれた。
 あのご両親となら、うまくやれそう!
 そんなこんなで、本格的に結婚の準備がスタートする。
 まずは挙式をどうするか。
 どこで、どんな規模で、どういうテイストの挙式にするか。
 そして和装か洋装か。
 それから入籍の日取りは? 挙式の日取りは?
 新婚旅行だって行きたい。それからそれから、新居の問題も。
 引っ越しをしてマンションを借りるのか、買うのか。
 それとも一軒家を購入? 建売の家にするのか、注文住宅にするのか。
 考えることが山ほどあって、なにから手をつけていいかわからない。
 「ううん……とりあえず、挙式からかな」
 ブライダル雑誌を読んで、どんな式にしたいかイメージする。敬一もいろいろ調べてくれているらしいけど、とにかくひとつでも多くの情報を収集したいみたいで熱心に調べているらしい。
 そのうえ仕事も忙しいみたいだから、なかなか会えないでいた。
 「仕方……ない、か」
 会えないのはいつものことだし。
 私たち婚約したんだもんね。このエンゲージリングを見ていると、寂しさも吹っ飛ぶよ。
 左薬指に光るリングを眺めて、私は顔をほころばせた。

 ――2ヵ月後の土曜日の夜。
 私は同僚の結婚式に向かいながら、連絡のつかない彼氏に腹をたてている。
 正式にプロポーズされてから、2ヵ月が経ちましたぜ?
 まだそれ以上の話が進んでいないんですけど、どういうこと?
 「メールも電話も出ないなんて、どういうつもり?」
 頬をぷう、と膨らませて、携帯のディスプレイをにらみつける。
 毎度、連絡が取れなくなるのはデフォですけども。
 それにしても会えてなさすぎ!
 ブライダル雑誌も、こんなに熟読する人はいないだろうってくらい読んだし、ネットでもそれに関する情報は網羅した。
 週末、敬一とデートしたいな、と思って予定を空けていても、仕事がたてこんでいるみたいでまったく会えず……。
 同棲していた時期もあるから、敬一の生活リズムを把握しているし、変な心配はしていないとはいえ。
 これはちょっと、さすがに……。
 そろそろ挙式について決めていきたい。うちの両親だって「結婚式のこと、決まったの?」と聞いてくる。
 そのたびに「まだなの」と伝えると、少し心配そうな顔をするんだから。
 いったい、いつになったらことが進むのだろう、とヤキモキしてくる。
 とにかく、今日は同僚の結婚式だ。気分をあらためて楽しもう。
 今日の会場は、とても有名なフレンチレストラン。レストランウェディングということで、お店を貸し切って式と披露宴を行なうみたい。
 お店の前にあるオープンテラスで人前式が行なわれる。解放的な広いガーデンで、晴天のもと、新郎新婦は皆の前で愛を誓い合う。
 そのあと食事をするお店は、フランスの古城のような立派な建物で、豪華絢爛な造りに圧倒された。
 まるで海外に来たみたいな雰囲気。こんな場所で披露宴パーティができるなんて、すごくロマンティックだと胸をときめかせる。
 会場に到着して部屋の中を見ると、シャンデリアがきらめいていて思わず見とれてしまった。
 「ステキ……」
 私もこんなところで式を挙げてもいいかも。最近ではレストランウェディングがはやっているもんね。
 私と敬一の結婚式を想像して期待に胸を膨らませていると、背後から男性に声をかけられた。
 「あ、新條。いたいた」
 「吉田くん!」
 スーツ姿だけど、いつもより小物やネクタイを変えてオシャレ感をプラスした吉田くんが声をかけてきた。
 「すっげぇよなー、ここのレストラン。雰囲気いいな」
 「そうだね」
 「そういや、新條も結婚するんだろ? 両親に挨拶が済んだって聞いたぞ」
 「……敬一から?」
 「そうそう」
 うちの父が「娘と結婚する男性とキャッチボールがしたい!」と言いだしたため、野球経験のない敬一は吉田くんの草野球チームに所属することになった。
 そして吉田くんに特訓してもらったおかげで、なんとかキャッチボールできるまで成長したんだけど……。
 目的を達成できたということで、敬一はチームを退会したと吉田くんから聞いた。
 「新條と婚約できたので、辞めますってさ。せっかくうまくなり始めていたのに残念だよなー」
 「っていうか、辞めたっていうことを吉田くんから聞くってどうなのよ。私彼女なのに、なんの報告もないよ」
 「そうなんだ」
 はは、と苦笑いされる。もう、全然笑えないんだって。
 「会えていないのかよ?」
 「そうなの。仕事が忙しいみたいで。プロポーズをOKしてから、会えてないんだ」
 「もしかして、本橋さんって釣った魚には餌をやらないタイプの人?」
 「そ、そんなことはないけど」
 もしかしてプロポーズにOKしたから、もう俺のものになったって放置されてる? いやいや、まさか。敬一に限ってそんなことない。
 敬一の性格からして、きっといまは仕事に集中しているんだと思う。新しく開発している薬の臨床試験がどうたらこうたらと言っていたことを思い出す。
 「でもさー、T大卒ってすごいよ。そうとう頭がよくないと入れないだろ?」
 「うん、そうだね」
 「しかも大手製薬会社の研究職だなんて……。うちの会社と比べたら月とスッポンだぜ。うちは休みは多いけど薄給だもんなー」
 たしかに。
 なぜかわからないけど、うちの会社は休みに関しては寛大で、有給や連休を安易に取ることができる。産休も育休も男女問わず取れるから、その点はとてもいいと思う。
 吉田くんが言うように、薄給ではあるけれど。
 「いいなー、新條は将来安泰だな」
 「うーん、どうなんだろう? 敬一がどのくらいお給料あるのか知らないし……」
 「そうなの?」
 でも高価なラブドールをポン! と惜しみなく買えるのだから、それなりにたくわえや収入があるのかもしれない。
 はぁ、結婚するっていうのに、知らないこともまだまだあるんだなと落ち込む。
 「おいおい、どうしたんだよ。元気なくなってるじゃん」
 「なんだかいろいろ思い出したら落ち込んできた」
 「ええーっ」
 がっくりと肩を落として下を向くと、吉田くんはあたふたと慌て始めた。
 「と、とにかく披露宴の席も隣だしさ、ゆっくり愚痴を聞いてやるから元気出せよ」
 「ありがと……」
 結局、披露宴中はこの件について話すことなく祝福に徹したのだけど、二次会の席で敬一のグチ大会になり、吉田くんにたくさん聞いてもらった。
 大好きなんだけど、会えないから寂しい。会えていないから会話ができていないし、なかなか進まない結婚話にいら立ちを感じている。
 このままで大丈夫なの?
 私たち本当に結婚できるの?
 そんな不安が生まれてきて、私の心はいつも沈み気味。
 これってマリッジブルーってやつだよね……?
 もっと会いたいし話したい、一緒にいたいんだと訴える私を、吉田くんはいつまでも慰めてくれるのだった。

 ――翌日。
 昨日は盛大にグチりすぎた。
 ノンアルコールでやり過ごしたわりに、お酒の入っている吉田くんより性質が悪かった。……反省。
 今日は日曜日。ゆっくりひとりで過ごそうかと思っていたところに、敬一から『いまから会えませんか?』とメールが入る。
 えっ……!?
 ワンコのようにブンブンブンと尻尾を振って『会う』とハートマーク10個くらいつけて即返信してしまった。
 昨日はあんなに不満たっぷりだったのに、メールひとつでこの変わりよう。私って単純だなぁ。

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理系男子の童貞を奪ったらたいへんなことになりました

理系男子の童貞を奪ったらたいへんなことになりましたハッピーウェディング! なにもつけない新婚初夜

著  者
藍川せりか
イラスト
淀川ゆお
レーベル
eロマンス文庫
価  格
454 円(税抜)
シリーズ
理系男子の童貞を奪ったら
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